3次元におけるDirac のデルタ関数
前回は1次元のデルタ関数について議論した。
実際に電磁気学で必要になるのは3次元のデルタ関数であるから、3次元への拡張を議論しよう。
デルタ関数は容易に3次元に拡張することが出来る。
δ3(r)=δ(x)δ(y)δ(z)
通常、r:=xˆx+yˆy+zˆzは原点から点(x,y,z)にかけて伸びる位置ベクトルである。3次元のデルタ関数は原点(0,0,0)を除く全ての点で0であり、体積積分すると1となる。
∫all spaceδ3(r)dτ=∫∞−∞∫∞−∞∫∞−∞δ(x)δ(y)δ(z)dxdydz=1
また、(92)の一般化で以下が成り立つ。
∫all spacesf(r)δ3(r−a)dτ=f(a)
1次元のデルタ関数と同様、デルタ関数δ3(r−a)と共に積分するとデルタ関数のトゲの位置における関数f(r)の値を抜き出すことが出来る。
我々はここで、以前導入を行ったパラドックスを再考することにしよう。以前やったように、ˆr/r2の発散は原点以外のいたるところで0となるが、原点を含む任意の領域で体積積分を行うと値が4πという定数になる。これらの問題はDirac のデルタ関数を用いて条件の定義を行うことが出来て、
∇⋅(ˆrr2)=4πδ3(r)
となる。より一般には、間隔ベクトルR:=r−r′を用いて
∇⋅(ˆRR2)=4πδ3(R)
となる。ここでの微分はrに関するものであって、r′は定ベクトルであるということに注意せよ。更に、
∇(1R)=−ˆRR2
という式が成り立つので、以下のような関係式も得ることが出来る。
∇21R=−4πδ3(R)
問題
以下の積分を計算せよ。但し、Vは中心が原点にあるような半径Rの球である。
J=∫V(r2+2)∇⋅(ˆrr2)dτ
ここで、球という用語について注意をしておく。数学的に正確な用語としては、sphere は球面を指していて、ball は球内の体積も含んでいる。しかし、物理学者はこれらをいずれも球と呼ぶことが多い。文脈から球面なのか球体なのかが明確に推測できない場合は球の面や球面の体積などと使い分けることにするが、特に問題が無ければ球と書くことにする。言葉に厳しい人にとっては、球の面というのはしつこく聞こえるかもしれないし、球面の体積というのも矛盾した言葉であるように感じるかもしれないが、物理学者はこれらを普通に使用している。
解説1
発散を書き直すために(99)を用いて、積分を実行するために(98)を用いると、
J=∫V(r2+2)4πδ3(r)dτ=4π(0+2)=8π
となる。この直観的な方法はデルタ関数が便利で美しいものであるということを示しているだろうが、この後に紹介する第2の解法も見てほしい。こちらはややこしい方法ではあるが、部分積分による方法を利用した興味深い解法である。
解説2
(59)を用いて、微分をˆr/r2から(r2+2)へ書き換えて、
J=−∫Vˆrr2⋅[∇(r2+2)]dτ+∮S(r2+2)ˆrr2⋅da
勾配は∇(r2+2)=2rˆrであるから、体積積分は
∫2rdτ=∫2rr2sinθdrdθdϕ=8π∫R0rdr=4πR2
となる。一方で、球面(r=R)ではda=R2sinθdθdϕˆrなので、面積分は
∫(R2+2)sinθdθdϕ=4π(R2+2)
となる。これらを代入すれば、
J=−4πR2+4π(R2+2)=8π
となり先ほどの解説1と同じ値が得られることになる。