この講義について
今回から電磁気学の入門講義を始めます。
電磁気学とはどのような学問なのかという導入部分の解説やベクトル解析の復習も丁寧に行っていきます。
この講義では学部1・2年生を対象にして電磁気学の入門を行います。
予備知識は高校物理と大学1年生レベルの古典力学・微分積分・線型代数・常微分方程式です。
電磁気学を大学で学ぶためにはベクトル解析の知識が必要不可欠ですが、これについては第1章で詳しく解説を行うので、必ずしも前提知識として持っている必要はありません。
大学で学ぶ電磁気学は、古典力学の時よりも多くの学生が挫折してしまいます。
その理由はやはりその基礎となっている数学が古典力学よりも難しいものだからでしょう。
そもそも、高校物理の頃から、「古典力学はまあまあ出来るけど電磁気は苦手」という人が多かったのではないでしょうか。
これは、本来微分積分やベクトル解析を用いて理解する必要がある方程式を丸暗記させられていたことが原因であると私は考えています。
大学では、物理数学をしっかり習得して、苦手意識のある電磁気学に胸を張って挑戦してほしいと思います。
大学の講義で電磁気学を学ぶということは、高校の頃やった公式の暗記をやめて、方程式の物理的意味を捉える訓練をするということなのだと意識すると良いでしょう。
そのため、電磁気学を学ぶためにはまず基礎となる物理数学、特にベクトル解析に習熟している必要があります。
この講義では、まず第0章と称して電磁気学とはどのような学問であるかということを説明します。
この部分は複雑な数式を一切使っていないので、電磁気学という分野全体の導入として見てください。
そして第1章で電磁気学を学ぶために必要なベクトル解析の知識を丁寧に導入します。
もしも、ベクトル解析の知識が十分にあるならこの章は飛ばしてしまっても差し支えありません。
続く第2章から第4章で電気学、すなわち電場についての解説を行い、第5章から第7章では磁気学、すなわち磁場についての解説を行います。
第7章の最後で、電磁気学の基礎方程式がマクスウェル方程式という4本の式で書けることを見ることになります。
第8章から第12章では電気力学と特殊相対性理論の関係について見ていきます。
これは20世紀初頭の物理学の大きな発展につながる重要なテーマです。
この講義では、電磁気学の基礎的な内容を解説しながら、時には例題を出して具体的な問題を解くということも行っていきます。
これらの行間を自分でしっかりと手を動かして追っていけば電磁気学についての深い理解が得られるようになっています。
本講義のスタイルは一貫してDavid J. Griffiths, “Introduction to Electrodynamics”, (Pearson, 2014)を最も参考にしました。
多くの記法や説明はこの本に依っています。
現在は同じ版がCambridge University Press から出版されています。
これ以外の参考書については、例えば、私の書いた記事『【永久保存版!】現役大学生が教える電磁気学のオススメ参考書』を参考にしていただきたいと思います。
力学の4分野
物理学における力学の偉大な4分野は次の通りです。
古典力学
ニュートン、オイラー、ラグランジュ、ハミルトン |
量子力学
ボーア、ハイゼンベルグ、シュレーディンガーなど |
特殊相対性理論
アインシュタイン |
場の量子論
ディラック、パウリ、ファインマン、シュウィンガーなど |
ニュートン力学は日常の殆どの状況において十分に実用に耐えうる理論です。
しかし、物体の速度が光速度に近付くぐらいまで速くなった場合は修正を迫られ、特殊相対性理論に置き換えられることになります。
特殊相対性理論はアインシュタインによって1905年に提唱されました。
加えて、物体の大きさが原子の大きさぐらいまで小さくなった場合も修正を迫られ、量子力学に置き換えられることになります。
量子力学はボーア、ハイゼンベルグ、シュレーディンガーを始めとする多くの物理学者たちによって提唱され、1920年代ごろまでに発展を遂げました。
そして、現代の素粒子物理学において議論されているように、物体が光速度に近付くぐらいまで速くなり、かつ大きさが原子の大きさぐらいまで小さくなった場合は、物体の力学は特殊相対性理論における原理と量子力学における原理に規則通り結びつくこととなります。
この相対論的量子力学は場の量子論として知られており、1930年代から1940年代にかけて発展を遂げましたが、今日の物理学においても完璧に満足のいく体系とはなっていません。
この講義では、最後の章を除き、専ら古典力学の領域で話を進めることになります。