前回は電磁波の放出(輻射)について扱いましたが、今回も引き続いて輻射の問題と解説について紹介していきます。
問題
[問題1]荷電粒子が等速直線運動する場合、荷電粒子が作る電磁場を求め、特徴を説明せよ。
[問題2]˙r0∥¨r0の場合(制動放射)、放出される輻射の強度分布(|E|2の方向依存性)を議論せよ。
[問題3]˙r⊥¨r0で荷電粒子が等速円運動をする場合、β≪1として輻射の強度分布を論ぜよ(サイクロトロン輻射)。
[問題4]問題3において、β≃1の場合の輻射の強度分布を論ぜよ(シンクロトロン輻射)。
演習問題解答
[問題1]
˙r0=0のときに荷電粒子によって作られる電場及び磁束密度は
{E=Q4πε01γ2s3{(R−Rβ)+γ2c2R×[(R−Rβ)רr0]}B=1cRR×E
を用いて計算するとただちに以下のように求めることが出来る。
{E=Q4πε01γ2s3(R−Rβ) (∝1R2 for R≫1)B=μ0Q4π1γ2s3(˙r0×R) (∝1R2 for R≫1)
これを用いるとPoynting ベクトルは以下のように求まる。
S=1cμ0|E|2RR=cμ0Q216π2R2γ4s6|RR−β|2RR (∝1R4 for R≫1)
よってPoynting ベクトルはR→∞でS→0となるから、荷電粒子が等速直線運動する場合、荷電粒子が作る電磁場は無限遠へエネルギーを放出することはないと結論出来る。
因みに、初めの方に求めた電場及び磁束密度はLorentz 変換を用いて計算できる等速直線運動する電荷が作る電場及び磁束密度に一致している。以下、これについて追加で考察してみることにする。電荷Qの荷電粒子の静止系で電場及び磁束密度は
{E′=Q4πε0R′R′3B′=0
である。先に導いた「無限遠へエネルギーを放出することはない」という結論はここからも確認出来るであろう。さて、これをu=−˙r0で等速直線運動する系へLoretz 変換すると
{E=Q4πε0R′3R−˙r0t√1−β2=Q4πε01γ2s3(R−Rβ)B=μ0Q4πR′3˙r0×R′√1−β2=μ0Q4π1γ2s3(˙r0×R)
と求まる。但し、それぞれR′=γsという関係式を用いた。これらは確かに先に行った計算結果に一致している。
[問題2]
˙r0∥¨r0のとき荷電粒子から放射される電場は
E=Q4πε0c21s3R×(Rרr0)
よって|E|2は以下の通り。また、sin2θ(1−βcosθ)6の角度分布をθの関数として図1に示す。
|E|2=(Q4πε0c2)2|¨r0|2sin2θR2(1−βcosθ)6
この図から荷電粒子の放射エネルギーについて次のことが言える。まず、βが1に近づくと、速度・加速度ベクトルの前方方向の放射エネルギーが増大する。但し、超前方θ≃0では放射は0となる。また、θ=90∘ではcosθ=0だから放射エネルギーはβに依存しない。そして、β→1ではθ=(2γ)−1にピークが現れる。
速度と平行に加速される荷電粒子による|E2|の角度分布
[問題3]
˙r0がz軸、¨r0がx軸となるように座標軸をとり、x軸とRのなす角をΘとすると、
|R×[(R−Rβ)רr0]|2=R4{(1−βcosθ)2¨r20−(1−β2)¨r20cos2Θ=R4{(1−βcosθ)2¨r20−(1−β2)¨r20sin2θcos2ϕ}
となる。但し、ここで極座標で(θ1,ϕ1)方向と(θ2,ϕ2)方向のなす角をΘとしたときに球面三角法により球面加法定理cosΘ=cosθ1cosθ2+sinθ1sinθ2cos(ϕ1−ϕ2)が成り立つことを用いた(θ2=π2、ϕ2=0を代入すればcosΘ=sinθcosϕを得る。)。これらの結果を用いると|E|2の値は以下のように求められる。
|E|2=(Q4πε0c2)2(1−βcosθ)2¨r20−(1−β2)¨r20sin2θcos2ϕR2(1−βcosθ)6
特にサイクロトロン放射の場合、β=0とおけば
|E|2=(Q4πε0c2)2¨r20sin2ΘR2
となり観測方向と加速度方向のなす角の正弦の2乗に比例することが分かる。
[問題4]
問題3の式を用いると、特にシンクロトロン放射の場合、相対論効果によって強度分布が前方に著しく傾き狭い範囲に集中して放射される。これよりθ=0の周りで展開してβ=1、1−β=(2γ2)−1とおけば
|E|2=(Q4πε0c2)216γ8¨r20R2(1−4γ2θ2cos2ϕ)
となり輻射がθ=0の近傍に集中していることが分かる。
参考文献
[1]渡辺誠、佐藤繁『放射光科学入門』、東北大学出版会、2010
[2]岡真『電磁場の古典論』、培風館、2009