相関関数
共形対称性は、場の量子論における相関関数のとりうる形に重要な制限を課す。特に制御出来るパラメーターだけで2点及び3点関数の形式は決定される。このことはd=2の場合とd>2の場合の両方に適用できるが、後者の場合は更に自由度が残ってしまう。
古典論レベルでの共形変換における作用の不変性δS=0は相関関数の形でのWard 恒等式
n∑i=1⟨ϕ1(x1)ϕ2(x2)⋯δϕi(xi)⋯ϕn(xn)⟩=0
を導く。但し、δϕは(80)で与えたものである。特に、スケール変換のWard 恒等式は
n∑i=1(xμi∂∂xμi+Δi)⟨ϕ1(x1)ϕ2(x2)⋯ϕi(xi)⋯ϕn(xn)⟩=0
と得ることが出来る。但し、Δiは場ϕiのスケール次元である。スケール変換と特殊共形変換に関連したWard 恒等式は相関関数の時空依存性に制限を与える。
例えば、スケール変換の下での不変性を用いると、スケール次元がΔ1とΔ2である2つの共形プライマリースカラー演算子ϕ1とϕ2の2点関数は
⟨ϕ1(x1)ϕ2(x2)⟩=λΔ1+Δ2⟨ϕ1(λx1)ϕ2(λx2)⟩
と変換する。スケール不変性より、今、以下の式が成り立っている。
(x1∂∂x1+Δ1+x2∂∂x2+Δ2)⟨ϕ1(x1)ϕ2(x2)⟩=0
これはx1−x2=:rとして以下のように書ける。
(r∂r+Δ1+Δ2)C(r)=0
これを常微分方程式とみなして解けば、以下のように書ける。
C(r)=Cϕ1ϕ2rΔ1+Δ2Poincare 不変性より、相関関数⟨ϕ1(x1)ϕ2(x2)⟩は(x1−x2)2のみに依存しているから、次のような式で書けると結論付けることが出来る。
⟨ϕ1(x1)ϕ2(x2)⟩=Cϕ1ϕ2(x1−x2)Δ1+Δ2
ここで、(x1−x2)Δ1+Δ2は((x1−x2)2)(Δ1+Δ2)/2の省略形であり、以後これを用いることにする。反転を利用すると、相関関数に更なる制限を与えることが出来る。すなわち、場が両方同じスケ—ル次元Δを持たない限り、2点関数は0である。特殊共形不変性より、今、次の式が成り立っている。
2∑i=1(2Δixi+x2i∂∂xi)⟨ϕ1(x1)ϕ2(x2)⟩={−(Δ1+Δ2)(x21−x22)x1−x2+2(Δ1x1+Δ2x2)}⟨ϕ1(x1)ϕ2(x2)⟩=(Δ1−Δ2)(x2−x1)⟨ϕ1(x1)ϕ2(x2)⟩=0
更に、2点関数に現れる定数Cϕ1ϕ2は実数かつϕ1とϕ2の交換に対して対称、すなわち、Cϕ1ϕ2=Cϕ2ϕ1なので、スカラープライマリー演算子Oの空間において、共役演算子O、ˉOに対してのみ0でないようにCを対角化することが出来る。最後に、O、ˉOを再定義することで、C=1とすることが出来るので、スケール次元Δのスカラー共役プライマリー演算子に対して次の結果を得る。
⟨O(x1)ˉO(x2)⟩=1(x1−x2)2Δ
同様の方法で、スケール次元Δiの3点スカラー共役プライマリー演算子Oi (i=1,2,3)についても、3点関数を次の結果を得ることが出来る。
⟨O1(x1)O2(x2)O3(x3)⟩=CO1O2O3(x1−x2)Δ1+Δ2−Δ3(x2−x3)−Δ1+Δ2+Δ3(x1−x3)Δ1−Δ2+Δ3
但し、定数CO1O2O3は場の中身で決定される。4点関数⟨O1O2O3O4⟩は無次元複比(x1−x2)2(x3−x4)2と(x1−x3)2(x2−x4)2を含んでいるので、対称性による制限が足りない。
問題
相関関数(91)と(92)がスケール変換と特殊共形変換に関連したWard 恒等式を満たすことを示せ。
Euclid 符号を用いて、2次元以上の場合の一般的な共形プライマリー演算子Oiを考えよう。添字iを表現O(d)(またはMinkowski 符号におけるO(d−1,1))の作用する空間の成分を表記するために用いる。Oiの例はベクトルカレントJμまたはエネルギー・運動量テンソルTμνなどである。この手順を場当たり的に全ての演算子に適用するのは非常に面倒である。しかし、我々は、共形変換の場合には誘導表現の方法を利用することも出来る。(59)で定義された行列Rは、Minkowski またはEuclid 符号における局所Lorentz 変換または局所回転を生じさせるが、それらの表現は場の量子論と対称性のところで既に研究している。従って、一般の共形プライマリー演算子は以下のように変換する。
Oi(x)↦Oi(x′)=Ω(x)ΔD(R(x))ijOj(x)
但し、Ω(x)は(48)で定義されたスケール因子であり、Δは共形次元、D(R(x))は局所Lorentz 変換に適切な表現である。
共形プライマリー演算子の2点関数を共形的に共変な形で構成することは容易である。(93)で変換する場Oと、共役な表現で変換する、すなわち、ˉOi(x)↦Ω(x)ΔˉOj(x)(D(R(x))−1)jiと変換するような共役な場ˉOについて、O、ˉOがO(d)の既約表現のときは、一般に次のように書くことが出来る。
⟨Oi(x)ˉOj(y)⟩=CO(x−y)2ΔD(I(x−y))ij
但し、COは演算子の再定義によって調整出来る、包括的なスケール因子である。
この結果を保存ベクトルカレントJμに適用すれば、以下の結果を得ることが出来る。
⟨Jμ(x)Jν(y)⟩=CJ(x−y)2(d−1)Iμν(x−y)
更に、エネルギー・運動量テンソルTμνに関しては、一般的な結果(94)によって以下の結果が成り立つことが分かる。
⟨Tμν(x)Tσρ(y)⟩=CT(x−y)2dITμν,σρ(x−y)
但し、
ITμν,ρσ(x−y)=Iμα(x−y)Iνβ(x−y)Pαβρσ
であり、Pは(12)で定義された、対称トレースレステンソルの空間での射影演算子である。ITは対応する反転テンソルを代表した書き方である。∂μJμはスカラーで、∂μTμνはベクトルなので、JμとTμνはそれぞれd−1とdの次元を有している。このことは(95)と(96)は要求されている保存方程式を自動的に
満たすという事を保証している。2次元の場合は表記(96)は複素座標を用いれば簡単に書くことが出来る。このこと次に述べる。
d=2におけるエネルギー・運動量テンソル2点関数
2次元の場合、複素座標をT=Tzz、ˉT=ˉTˉzˉzと導入するのが便利である。これを用いると、一般的な結果(96)は以下のように書けることが知られている。
⟨T(z)T(w)⟩=c/2(z−w)4
ここで、cは(72)のVirasoro 中心電荷である。Virasoro 代数との整合性は、エネルギー・運動量テンソルをVirasoro 生成子で以下のようにLaurent 展開して
T(z)=∑n∈Zz−n−2Ln 、 Ln=12πi∮dzzn+1T(z)
交換子[Lm,Ln]を計算することで得られる。