スピノール表現
前回に引き続いて、演習問題を交えながらスピノール表現について学んでいこう。
問題
4次元Minkowski 時空において(BC)∗BC=1lが実際に成り立っていることを示すことでMajorana スピノールを定義出来るということを示せ。ガンマ行列\を利用してBC=iγ2とおいてみよ(注:γ2は2乗ではなく、μ=2の意。)。
解答
Pauli 行列の性質として(σ2)2=1l、(σ2)∗=−σ2であることを思い出しておくと、
BC=i(0σ2−σ20) 、(BC)∗=−i(0−σ2σ20)
である。よって、確かに(BC)∗BC=1lである。
注意すべき事は、Majorana スピノールとWeyl スピノールはLorentz 代数の2つの異なる表現であるという事である。特に、これら2つの表現は同等ではないが、同じ次元を有している。すなわち、両者とも4つの実成分を有しており、Majorana スピノールとWeyl スピノールの成分の間に1対1写像を見いだすことが出来る。
これらの結果をd次元のMinkowski 時空に一般化してみよう。偶数次元の時空において、我々は常に射影演算子P±を定義することが出来る。これらはそれぞれ複素次元2d2−1の左巻きWeyl スピノールと右巻きWeyl スピノールに対応している。Majorana 条件は次の様に修正することが出来る。
γ∗μ=∓BCγμ(BC)−1 、 Ψ∗=BCΨ
但し、相変わらず(BC)∗BC=1lを満たしている。(33)において上の符号を取る場合、スピノールはMajorana スピノールと呼ばれ、下の符号を取る場合は擬Majorana スピノールと呼ばれる。このような(擬)Majorana スピノールは次元がd=0,1,2,3,4 (mod 8)の時に存在し、それらの自由度はDirac スピノールΨの自由度の半分である。
偶数次元の時空ではWeyl 条件とMajorana 条件が両立するか否か、すなわち、対応する投影演算子が交換するかどうかを更に問うことが出来る。これはd=2 (mod 8)次元においてのみ可能であり、このようなMajorana-Weyl スピノールを定義することができる。 奇数次元の時空では、我々はMajorana 条件または擬Majorana 条件を課すことしか出来ない。表1では、d≤11次元のMinkowski 時空におけるスピンのすべての可能なタイプが最小既約表現と同様に列挙されている。
表1 d次元Minkowski 時空におけるスピノールのタイプ
d | 実次元 | Weyl 場 | Majorana 場 | 擬Majorana 場 | Majorana-Weyl 場 |
2 | 1 | ∙ | ∙ | ∙ | ∙ |
3 | 2 | ∙ | |||
4 | 4 | ∙ | ∙ | ||
5 | 8 | ||||
6 | 8 | ∙ | |||
7 | 16 | ||||
8 | 16 | ∙ | ∙ | ||
9 | 16 | ∙ | |||
10 | 16 | ∙ | ∙ | ∙ | ∙ |
11 | 32 | ∙ |
固有値問題に関する定理
行列の固有値問題を考える時に便利な定理として、以下のような定理が知られている。
n×nの単位行列をE、n×nの正方行列Aの固有値をλ1,⋯,λnとすると、Aの特性多項式
f(λ):=det(λE−A)=λn−σ1λn−1+⋯+(−1)nσn
において、
{σ1=trA=λ1+⋯+λnσn=detA=λ1×⋯×λn
が成り立つ。
証明
λ1,⋯,λnは特性方程式f(λ)=0の根だから、
det(λE−A)=λn−σ1λn−1+⋯+(−1)nσn=(λ−λ1)⋯(λ−λn)
この式においてλ=0とおくと
det(−A)=det(−E)detA=(−1)ndetA=(−1)nσn=(−1)nλ1×⋯×λn
従って、確かにσn=detA=λ1×⋯×λnが成り立つ。一方で、
σ1=a11+⋯+ann=trA
である。よってλn−1の係数を比較すると
−trA=−(λ1+⋯+λn)
従って、確かにσ1=trA=λ1+⋯+λnが成り立つ。