Pauli-Lubanski ベクトルの性質
ここでPoincare 群とPauli-Lubanski ベクトルの定義と性質及びその証明をまとめておくことにする。
Poincare 群とPauli-Lubanski ベクトルに関する諸性質
Pρを並行移動の生成子(運動量)、Siを空間の角運動量、JμνをLorentz 変換の生成子とする。JμνはJμν:=i(xμ∂ν−xν∂μ)+Aμνである。例えば、考えている場がスピノールなら、(19)に従ってAμν=Jμνとなる。他の本ではAμνではなくSμνとなっていることが多いが、Siと混同しないようにここではAμνとした。
次に、Pauli-Lubanski ベクトルWσを用意しよう。Wをウェッジ積∧とHodge 双対∗を用いてW:=∗(J∧P)と定義する。このとき、座標基底を用いて
J:=12Jμνdxμ∧dxν 、 P:=Pρdxρ
としておく。すると、J∧P及び∗(J∧P)はそれぞれ
J∧P=12JμνPρdxμ∧dxν∧dxρ
∗(J∧P)=12JμνPρ∗(dxμ∧dxν∧dxρ)⏟=ϵμνρσdxσ=12JμνPρϵμνρσdxσ=:Wσdxσ
となる。これによりPauli-Lubanski ベクトルの定義が完了した。
- (1)PρとJμνの関係式;
[Pρ,Jμν]=i(ημρPν−ηνρPμ) - (2)P2がCasimir 演算子であること;
[PμPμ,Pρ]=[PμPμ,Jνλ]=0} - (3)Pauli-Lubanski ベクトルがHermitian であること;
(Wσ)†=Wσ} - (4)Pauli-Lubanski ベクトルが運動量演算子と可換であること;
[Wσ,Pρ]=0} - (5)Pauli-Lubanski ベクトルと運動量演算子の内積が0であること;
PσWσ=0} - (6)WσとJμνの関係式;
[Wσ,Jμν]=i(ημσWν−ηνσWμ) - (7)W2がCasimir 演算子であること;
[WμWμ,Pρ]=[WμWμ,Jνλ]=0 - (8)Pauli-Lubanski ベクトルが軌道角運動量に依らないこと;
Wσ=−i2ϵμνρσAμν∂ρ - (9)Pauli-Lubanski ベクトルの時間成分と空間成分;
Wσ=(W0,Wi)=(PiSi,−P0Si+12ϵijρσPjJρσ) (i,j,k=1,2,3) - (10)空間の角運動量Siと4元運動量の時間成分P0が可換であること;
[Si,P0]=0 - (11)pμ=(m,0,0,0)のとき、W2の固有値がm2s(s+1)であること;
WσWσ=P20SiSi - (12)PσPσ=WσWσ=PσWσ=0ならば、運動量ベクトルとPauli-Lubanski ベクトルが平行であること
証明
次のようにそれぞれ示す。
(1)
[Pρ,Jμν]=[−i∂ρ,i(xμ∂ν−xν∂μ)+Aμν]=[∂ρ,xμ∂ν−xν∂μ]+[∂ρ,Aμν]⏟=0=∂ρ(xμ∂ν)−∂ρ(xν∂μ)−xμ∂ν∂ρ+xν∂μ∂ρ=(∂ρxμ)∂ν−(∂ρxν)∂μ=δμρ∂ν−δνρ∂μ=ημληλρ∂ν−ηνληλρ∂μ=ημρ∂ν−ηνρ∂μ=i(ημρPν−ηνρPμ)
(2)
[PμPμ,Pρ]=0は自明。もう片方の等式は次のように示せる。
[PμPμ,Jνλ]=Pμ[Pμ,Jνλ]+[Pμ,Jνλ]Pμ=Pμ×i(ηνμPλ−ηλμPν)+i(ημνPλ−ημλPν)×Pμ=i(PνPλ−PλPν+PλPμ−PνPλ)=0
(3)
(Wσ)†=12ϵμνρσP†ρJ†μν⏟=PρJμν=12ϵμνρσ(JμνPρ+[Pρ,Jμν])=Wσ+12iϵμνρσ(ημρPν−ηνρPμ)⏟反対称なテンソルと対称なテンソルの縮約なので0になる(以後断らない。)。=Wσ
(4)
[Wσ,Pρ]=12ϵμνλσ[JμνPλ,Pρ]=12ϵμνλσ(Jμν[Pλ,Pρ]⏟=0+[Jμν,Pρ]⏟=−i(ηρμPν−ηρνPμ)Pλ)=i2(ϵμρλσPμ−ϵρνλσPν)Pλ=0
(5)
PσWσ=12ϵμνρσPσJμνPρ=0
(6)
PσWσ=0を利用して題意を示す。
0=[PσWσ,Jμν]=Pσ[Wσ,Jμν]+[Pσ,Jμν]Wσ
なので、これより
Pσ[Wσ,Jμν]=−[Pσ,Jμν]Wσ=Pσ(iημσWν−iηνσWμ)
従って、以下の式が成り立つことが示された。
[Wσ,Jμν]=i(ημσWν−ηνσWμ)
(7)
[Wσ,Pρ]=0なので[WσWσ,Pρ]=0は自明。もう片方の等式は次のように示せる。
[WσWσ,Jνλ]=Wσ[Wσ,Jνλ]+[Wσ,Jνλ]Wσ=iWσ(ηνσWλ−ηλσWν)+i(ησνWλ−ησλWν)Wσ=i(WνWλ−WλWν+WλWν−WνWλ)=0
(8)
Wσ=12ϵμνρσJμνPρ=12ϵμνρσ{PρJμν−i(ημρPν−ηνρPμ)}=12ϵμνρσ(−i∂ρ){i(xμ∂ν−xν∂μ)+Aμν}−i2ϵμνρσ(ημρPν−ηνρPμ)⏟=0=12ϵμνρσ(ημρ∂ν+xμ∂ρ∂ν−ηνρ∂μ−xν∂ρ∂μ)⏟=0−i2ϵμνρσ∂ρAμν⏟=Aμν∂ρ=−i2ϵμνρσAμν∂ρ
(9)
W0=12ϵμνρ0JμνPρ=12ϵijk0JjkPi=PiSi
Wi=12ϵμνρiJμνPρ=12ϵμν0i⏟=ϵ0iμνJμνP0=P0Si+12ϵμνji⏟=−ϵijμνJμνPj=P0Si−12ϵijμνJμνPj
(10)
[Si,P0]=12ϵ0ijk[Jjk,P0]⏟=−iηj0Pk+iηk0Pj=0
(11)今、Wσ=(0,P0Si)より、
WσWσ=P0SiP0Si=m2SiSi
(12)運動方向をx軸の向きに取るとPσ=(P0,P1,0,0)とすることが出来る。PσPσ=0より(P0)2=(P1)2なので、Pσ=(P0,±P0,0,0)となる。
一方、PσWσ=0より0=PσWσ=−P0W0+P1W1=−P0W0±P0W1なので、W1=±W0となることが分かる。
そして、WσWσ=0より−(W0)2+(W0)2+(W2)2+(W3)2=0なので、W2=W3=0となることが分かる。
以上より、Pσ=(P0,±P0,0,0)、Wσ=(W0,±W0,0,0)なのでPとWは比例することが言えた。これは直観的に言えば、2つのヌルベクトルは内積が0ならば平行であるということである。