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Ward-高橋恒等式
場の量子論で議論したように、連続的対称性は$n$点相関関数に制約を与える。ここでは、それらがLorentz 変換や平行移動によってどのように制限されるかについての入門を行う。
初めに、対称性が必ずしもスカラー場とは限らないような量子場$\phi$にどのように作用するのかを見てみよう。Lorentz 変換において、場$\phi(x)$の変分は次のように与えられる。
\begin{equation}
\delta\phi(x)=\tilde{\phi}(x)-\phi(x)=\exp{\left(\dfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}\mathcal{J}^{\mu\nu}\right)}\phi(\Lambda^{-1}x)-\phi(x)\tag{39}
\end{equation}
また、従って、これに対応する$x=0$における微小変換は次のようにあらわせる。
\begin{equation}
\delta\phi(0)=\dfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}\mathcal{J}^{\mu\nu}\phi(0)\tag{40}
\end{equation}
場の量子論において、我々はLorentz 変換の生成子$J^{\mu\nu}$を場の理論で説明したような演算子$\hat{J}^{\mu\nu}$に昇格させる必要がある。特に、微小変化$\delta\phi(x)$は$\hat{J}^{\mu\nu}$を含んだ交換子を用いて次のように書くことが出来る。
\begin{equation}
\delta\phi(0)=-\dfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}[\hat{J}^{\mu\nu},\phi(0)]\tag{41}
\end{equation}
従って、我々は次のような結論を得ることが出来る。
\begin{equation}
[\hat{J}^{\mu\nu},\phi(0)]=-\mathcal{J}^{\mu\nu}\phi(0)\tag{42}
\end{equation}
ここでは教育的な理由から、我々は生成子$J^{\mu\nu}$が時空に作用するのではなく、量子場のHilbert 空間に作用することに対応する演算子であるということを強調するために、$J^{\mu\nu}$にハット記号を導入した。
問題
次の式を示すことで、交換関係(42)を任意の時空点$x$において評価される場に一般化せよ。
\begin{equation}
[\hat{J}^{\mu\nu},\phi(x)]=-\mathcal{J}^{\mu\nu}\phi(x)+i(x^\mu\partial^\nu-x^\nu\partial^\mu)\phi(x)\tag{43}
\end{equation}
解答
(2)、(39)より
\begin{align}
\tilde{\phi}(x)\simeq&\underbrace{\left(1+\dfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}\mathcal{J}^{\mu\nu}\right)}_{\exp~の\mathrm{Maclaurin}~展開}\underbrace{\left\{1+\dfrac{1}{2}\omega_{\mu\nu}(x^\mu\partial^\nu-x^\nu\partial^\mu)\right\}\phi(x)}_{\mathrm{Lorentz}~変換の部分の展開}\nonumber\\
\simeq&\left\{1+\dfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}\mathcal{J}^{\mu\nu}+\dfrac{1}{2}\omega_{\mu\nu}(x^\mu\partial^\nu-x^\nu\partial^\mu)\right\}\phi(x)\nonumber
\end{align}
従って、
\[
\tilde{\phi}(x)-\phi(x)=-\dfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}\{-\mathcal{J}^{\mu\nu}+i(x^\mu\partial^\nu-x^\nu\partial^\mu)\}\phi(x)
\]
よって題意は以下のように示された。
\[
\delta\hat{\phi}(x)=-\dfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}[\hat{\mathcal{J}}^{\mu\nu},\hat{\phi}(x)]
\]
平行移動に関しても同じような手順を応用できる。$\phi(x)$の微小変換は次のように書ける。
\begin{equation}
\delta\phi(x)=-a^\mu\partial_\mu\phi(x)\tag{44}
\end{equation}
そして、次の交換子を得る。
\begin{equation}
[\hat{P}_\mu,\phi(x)]=-i\partial_\mu\phi(x)\tag{45}
\end{equation}
差し当たって、演算子のハット記号は取り除く。更に、場に作用する$\mathcal{J}^{\mu\nu}$の類推で、Hilbert 空間における場$\phi(x)$に作用する$\mathcal{P}_\mu=-i\partial_\mu$を定義する。
問題
$\mathcal{P}^\rho$、$\mathcal{J}^{\mu\nu}-i(x^\mu\partial^\nu-x^\nu\partial^\mu)$が実際に交換関係(37)を満たすことを示せ。
解答
(45)を利用すれば、以下のように計算できる。
\begin{align}
[\mathcal{J}_{\mu\nu}-i(x_\mu\partial_\nu-x_\nu\partial_\mu),\mathcal{P}_\rho]\phi(x)=&\mathcal{J}_{\mu\nu}(-i\partial_\rho)\phi(x)-(i\partial_\rho)\mathcal{J}_{\mu\nu}\phi(x)-(x_\mu\partial_\nu-x_\nu\partial_\mu)\partial_\rho\phi(x)\nonumber\\
&+\partial_\rho\{(x_\mu\partial_\nu-x_\nu\partial_\mu)\phi(x)\}=(\eta_{\mu\rho}\partial_\nu-\eta_{\nu\rho}\partial_\mu)\phi(x)=i(\eta_{\mu\rho}\mathcal{P}_\nu-\eta_{\nu\rho}\mathcal{P}_\mu)\phi(x)\nonumber
\end{align}
\[
[\mathcal{P}_\mu,\mathcal{P}_\nu]\phi(x)=(-\partial_\mu\partial_\nu+\partial_\nu\partial_\mu)\phi(x)=0
\]
問題
演算子$\mathcal{T}(a)=\exp{(-i\hat{\mathcal{P}}_\mu a^\mu)}$は場$\phi(x)$に次のように作用することを示せ。
\begin{equation}
\mathcal{T}(a)^{-1}\phi(x)\mathcal{T}(a)=\phi(x-a)\tag{46}
\end{equation}
解答
今、微小変換を考えているから、
\[
\left\{
\begin{array}{r}
\mathcal{T}(a)\simeq1+i\mathcal{P}_\mu a^\mu\\
\mathcal{T}^{-1}(a)\simeq1-i\mathcal{P}_\mu a^\mu
\end{array}
\right.
\]
となる。これを利用すれば、以下のように題意が示せる。
\begin{align}
\mathcal{T}^{-1}(a)\phi(x)\mathcal{T}(a)\simeq&(1-i\mathcal{P}_\mu a^\mu)\phi(x)(1+i\mathcal{P}_\mu a^\mu)=\phi(x)-ia^\mu\mathcal{P}_\mu\phi(x)(1+i\mathcal{P}_\mu a^\mu)\nonumber\\
\simeq&\phi(x)-ia^\mu\mathcal{P}_\mu\phi(x)+i\phi(x)a^\mu\mathcal{P}_\mu=\phi(x)-ia^\mu[\mathcal{P}_\mu,\phi(x)]=(1-a^\mu\partial_\mu)\phi(x)\simeq\phi(x-a)\nonumber
\end{align}
$\delta\phi$は(41)と(44)を満たす。$n$点相関関数$\Braket{\phi(x_1)\cdots\phi(x_n)}$は差$(x_i-x_j)^2$のみに依存する。特に、$1$点関数は定数である必要があり、$2$点関数の形は
\begin{equation}
\langle\phi(x_1)\phi(x_2)\rangle=f\left((x_1-x_2)^2\right)\tag{47}
\end{equation}
となる。ここで、$f$は任意の関数である。
Poincare 代数のその先
粒子状態を分類するためには、対称代数を知ることが重要である。直前のセクションでは、Poincare 代数を考えた。Poincare 代数は内部対称性によっても拡張することが出来る。そして、粒子状態は運動量、質量、スピン(または質量のない場合のヘリシティ)及び内部対称性からの電荷によって分類される。
この文脈で重要な疑問は、Poincare 代数をさらに拡張できるかどうかである。ある重要だが合理的な仮定の下で主張される強力な定理として、以下で述べるColeman-Mandula の定理がある。$1+1$次元以上の非自明な散乱を伴う理論において、Lorentz 群の下でテンソルとして変換する唯一の保存量は、エネルギー・運動量ベクトル$P^\mu$とLorentz 変換の生成子$J^{\rho\sigma}$、そして$P^\mu$や$J^{\rho\sigma}$と交換するような内部対称性である。
Coleman-Mandula定理を回避出来るだろうか?実は2つの可能性がある。もし理論が質量のない粒子のみを有する場合はPoincare 代数は共形代数に拡張される。この理論はLorentz 変換と平行移動に加えて、角度保存変形でも不変である。これは理論のダイナミクスに制限を課すことになる。その結果は3.2節でより詳細に研究する。
更に、我々はLorentz 群のテンソル表現において変換するような量に制限する必要はない。我々はスピン電荷$\mathcal{Q}_\alpha$を生じさせるようなスピノール表現において変換する保存量を考えて、それらの生成子に対して反交換関係を課すこともできる。そしてPoincare 代数は超対称代数として知られているものに拡張される。これは後で述べられる。
Coleman-Mandula の定理
Coleman-Mandula の定理とは、場の量子論において、Poincare 対称性(つまり時空対称性)と内部対称性は直積群においてのみ結びつき得るという主張である。これは、質量ギャップを持つ理論において保存された量は全てLorentz スカラーであることを意味する。この定理の証明は、理論のS行列とそれ自身のLie 代数の変換特性を考慮することによって得られる。
この定理を回避する1つの方法は、質量ギャップもS行列もない共形場理論を検討することである。共形対称性は、Poincare 対称性の非自明な拡張である。この定理をバイパスするもう1つの方法は、Lie 代数の代わりにLie 超代数を含む超対称性を考えることである。