量子力学10
今回はボーアモデルの問題を考えていきます。
ボーアモデル
ボーアモデルでは電子の軌道が半径rの円であるとして、円周の長さが波長の整数倍に一致すると考えて2πr=nλ⇔L=nℏが成り立つと仮定する。エネルギー殻間のエネルギー遷移はリュードベリの公式に一致する。ボーアモデルを原子番号Zの水素以外の原子について考えると、原子の中の電子の速度はZ倍、軌道の半径はZ−1倍になる。また、これにともなって許されるエネルギーはZ2倍になる。
ボーアモデルではある殻の中にいる電子は核の周りを移動する時に放射が起こらないと考える。これはこの模型の難点である。これは20世紀初頭の物理学では大きな問題となっていた。古典的には、電子は軌道を回っている間は常に軌道を回って放射し、加速されて陽子に螺旋状になり原子を崩壊させるためである。
ボーアモデルが問われるときは、角運動量の量子化に関する簡単な計算をさせられるか、ボーアモデルの概念が問われるかのどちらかである。
水素原子に対する摂動論
水素のスペクトルにはいくつかの重要な補正があり、そのどれもが興味深い観測可能な効果をもたらす。L2、S2、J2=(L+S)2は全て可換なので、水素原子の状態は常にl,s,jで書くことができる。しかし、これらに摂動が存在する場合は対応するmの値が保存しない場合がある。
微細構造
微細構造はα2のオーダーの補正であり、ハミルトニアンの電子の運動エネルギーを相対論的な運動エネルギーに置き換えた場合、及びL⋅Sという形であらわされる電子のスピン角運動量と電子の軌道角運動量の間のスピン・軌道相互作用を含めた場合に生じる、スペクトルの微細な分裂現象である。
これは電子の軌道角運動量と原子核のスピン角運動量の間の相互作用ではないということに注意が必要である。原子核のスピンの寄与は以下の超微細構造のときに初めて考慮することになる。JはL⋅Sと可換なのでmjも保存する。エネルギーはmjについて縮退しているが、lが異なる値を持つ状態では異なるエネルギーを有するのでlの縮退は破れている。
微細構造の例として、Na 原子のD 線がしばしば題材にされる。Na 原子の3s準位と3p準位のエネルギー差は橙色の光のエネルギーに対応する。これがナトリウムランプの色であり、D 線と呼ばれている。D線を高分解能
で観測すると17 cm−1だけ分裂した2本のスペクトル(微細構造)からなることが分かる。
ラムシフト
ラムシフトはj=1/2の2s軌道と2p軌道のエネルギー準位にごく僅かに分裂が現れるという効果である。これはαのオーダーだけ微細構造よりも小さな効果である。微細構造におけるjと同じjを持つので、これらの分裂は縮退する。ラムシフトは知識問題として問われることが多い。
超微細構造
超微細構造は、スピン・スピン相互作用と呼ばれる、運動する電子の磁気双極子モーメントと核の磁気モーメントとの相互作用により起こる効果である。エネルギー補正はαの微細構造と同じ次数である。しかし、点粒子の磁気回転比はその質量に依存するため、比率me/mpによってさらに抑制される。その結果、水素の基底状態は2つのスピンが一重項状態か三重項状態かに応じて分割される。三重項はより高いエネルギーを持ち、これら2つの状態間の遷移における放出光子の波長は約21 cmでエネルギーは約5 MeVである。
補足
以上の摂動計算がで問われることは少ないが、これらの相対的な強さや物理現象について答えるという問題は良く出題されている。このとき、容易な計算を行う必要もあるが、これに関しては以下のような計算公式が威力を発揮する。
J2=(L+S)2=L2+2L⋅S+S2
L⋅S=12(J2−L2−S2)
ここからL⋅Sを計算することが可能になる。