量子力学07
今回からはスピンの問題を考えていきます。
スピン
スピン演算子ˆS=(ˆSx,ˆSy,ˆSz)は角運動量演算子ˆLと同じ性質をもっている。例えば、ˆS2=s(s+1)ℏ2であり、s=12の場合は34ℏ2となる。軌道角運動量lが整数しか許されないのに対し、sは整数でも半奇数でも良い。但し、sはs=−32,−12,12,32と1ずつ変化する。スピンのz成分mzは−s,−s+1,⋯,sの範囲を取る。スピン+12の場合、ms=+12の状態を|↑⟩、スピン−12の場合、ms=−12の状態を|↓⟩と書く。
スピン1/2
スピン12の場合のスピン演算子ˆSiはパウリ行列σi (i=x,y,z)を用いて、ˆS=ℏ2σiと書ける。
σx=(0110) , σy=(0−ii0) , σz=(100−1)
である。σzは対角行列なので、|↑⟩=(1,0)Tと|↓⟩=(0,1)Tと取れる。よって、ˆSzの固有値は±ℏ2である。
ˆSxとˆSyの固有ベクトルは以下のようにあらわせる。
{|↑⟩x=1√2(11),|↓⟩x=1√2(1−1)|↑⟩y=1√2(1i),|↓⟩y=1√2(1−i)
ˆSxとˆSyも固有値は±ℏ2であることは覚えておくと良い。
また、ˆSxとˆSyの線型結合によって以下の演算子を作ることができる。
ˆS+=ˆSx+iˆSy, ˆS−=ˆSx−iˆSy
このˆS+には|↓⟩を|↑⟩に変える役割が、ˆS−には|↑⟩を|↓⟩に変える役割があることが分かる。
{ˆS+|↑⟩=0,ˆS−|↑⟩=ℏ|↓⟩ˆS+|↓⟩=ℏ|↓⟩,ˆS−|↓⟩=0
スピンと波動関数
正味の波動関数は、常に空間の波動関数とスピンの波動関数の直積となる。一般に、ハミルトニアンは空間の演算子とスピン演算子をどちらも有することができる。この性質は量子系に磁場を掛けた際に重要になる。磁場が掛けられると、ハミルトニアンに外場の項が加わり、粒子のスピンは磁気双極子のように振舞う。
空間の演算子とスピン演算子が結合することは無いが、ハミルトニアンはどちらの波動関数にも作用するから、どちらも全エネルギーの式への寄与がある。
ボソンとフェルミオン
スピンが整数の粒子をボソンと言い、半整数の粒子をフェルミオンと言う。ボソンの波動関数は座標の入れ替えに対して完全に対称であり、フェルミオンは完全に反対称である。また、2つの同一なフェルミオンは同じ量子状態を占有することができない。これをパウリの排他原理と呼ぶ。また、このとき以下の重要な性質がある。
- スピン1/2の粒子n個を考えるとき、sが最大値n/2を取るような状態は常に対称となる(2電子系の合成で求めた|11⟩、|10⟩、|1−1⟩を参照。)。
- 全ての対称性は同種粒子の部分系に適応できる。例えば、4Heは陽子、中性子、電子がそれぞれ2個ずつあるのでそれらを適当に分けて考えても良いし、全体ではボソンとみなす。