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第25講:楕円関数の特性

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楕円関数の特性

楕円関数の部分分数的表示法によれば任意の楕円関数は次の四種の関数の一次式として表される。
(i)$\zeta\left(u-a\right)$
(ii)$\wp\left(u-a\right)$
(iii)$\wp’\left(u-a\right)$
(iv)$\wp^{”}\left(u-a\right)$及び高次の導関数

すると(iv)は(ii)及び(iii)の有理整式として表される(第24回(VII))。そしてその(ii)及び(iii)は$\wp$の加法公式及びそれを微分した式を用いれば$\wp\left(u\right)$、$\wp’\left(u\right)$、$\wp\left(a\right)$、$\wp’\left(a\right)$で表される、しかし$\wp\left(a\right)$、$\wp’\left(a\right)$は定数であるから、つまり$\wp\left(u\right)$、$\wp’\left(u\right)$の有理関数に過ぎない。要するに、(ii)、(iii)、(iv)の部分はすべて$\wp\left(u\right)$、$\wp’\left(u\right)$の有理関数に書き直される。さて残る所は(i)の部分、すなわち
\[
\sum A\zeta\left(u-a\right)
\]
の形の式であるが、これを$\zeta$の加法公式によって変形すれば
\[
\zeta\left(u\right)\sum A-\sum A\zeta\left(a\right)+\frac{1}{2}\sum A\frac{\wp’\left(u\right)+\wp’\left(a\right)}{\wp\left(u\right)-\wp\left(a\right)}
\]
となる。ここで$\sum A=0$となることに注意:すれば、この結果もまた$\wp\left(u\right)、\wp’\left(u\right)$の有理関数に他ならないことが判る。よって
 定理 1。 任意の楕円関数は$\wp$及び$\wp’$関数の(定数のみを係数とする)有理関数として表される。 
 ここでまた$\wp^{‘2}$が$\wp$の三次式に等しいことを利用すれば、結局任意の楕円関数$f\left(u\right)$は常に
\[
f\left(u\right)=\frac{A+B\wp’\left(u\right)}{C+D\wp’\left(u\right)}\hspace{1cm}\left(A、B、C、Dは\wp\left(u\right)の多項式\right)
\]
の形に表される。さらにこの分母分子に$C-D\wp’\left(u\right)$をかけて整頓すれば
\[
f\left(u\right)=P+Q\wp’\left(u\right)\hspace{1cm}\left(P、Qは\wp\left(u\right)の有理式\right)
\]
となる。特に$f\left(u\right)$が偶関数ならば$P$のみで、奇関数ならば$Q\wp’\left(u\right)$のみで表される。
 例えば$\mathrm{sn}\ u$を表すには、
\[
\omega_1=2K、\ \ \ \omega_3=iK’
\]
であるような$\wp$関数を用いて
\[
\mathrm{sn}\ u=-\frac{2\left\{\wp\left(u\right)-e_1\right\}}{\wp’\left(u\right)}
\]
とすればよい。なぜならばこの右辺は$\mathrm{sn}$と同一の周期、零点及び極をもち、かつ両辺を$u$の冪級数に展開すればその第一項は共に$u$となるからである。
 さて今$f_1\left(u\right)、f_2\left(u\right)$を二つの楕円関数とし、それが同じ周期平行四辺形に属するとすれば、上述の理論によりこれらの二関数は同じ$\wp\left(u\right)、\wp’\left(u\right)$を用いて
\[
f_1\left(u\right)=P_1+Q_1\wp’\left(u\right)、\ \ \
f_2\left(u\right)=P_2+Q_2\wp’\left(u\right)\tag{1}
\]
の形に表される。これと
\[
\wp’\left(u\right)^2=4\wp’\left(u\right)^3-g_2\wp\left(u\right)-g_3\tag{2}
\]
の間に$\wp\left(u\right)、\wp’\left(u\right)$を消去すれば
\[
R\left\{f_1\left(u\right)、f_2\left(u\right)\right\}=0\tag{3}
\]
の形の関係を得る、ここに$R$は定数のみを係数とする有理整関数を示す。よって
 定理 2。 同じ周期平行四辺形に属する二つの楕円関数の間には常に(定数のみを係数とする)代数的関係式が成立する。
 特に$f_2={f_1}’$とすれば、(3)は$f_1\left(u\right)$に関する微分方程式となる。
 定理 3。 任意の楕円関数は定数のみを係数とする第一階の代数的微分方程式を満足させる。
 その微分方程式を${f_1}’\left(u\right)$に関する代数方程式と考えて解けば
\[
{f_1}’\left(u\right)=S\left\{f_1\left(u\right)\right\}
\]
となる、ただし$S$は代数関数を示す。今$w=f_1\left(u\right)$とおけば
\[
\frac{dw}{du}=S\left(w\right)
\]
したがって
\[
u=\int\frac{dw}{S\left(w\right)}
\]
よって次の定理を得る。
 定理 4。 楕円関数はすべてある楕円関数の積分の逆関数である。
 次に、任意の楕円関数を$f\left(u\right)$とすれば、これと同じ周期をもつ$\wp\left(u\right)$と$f\left(u\right)$の間には、定理2により、
\[
R_1\left\{f\left(u\right)、\wp\left(u\right)\right\}=0\tag{4}
\]
のような代数的関係式が成り立つ。変数$u$を$v$、$u+v$等と書き直せば
\[
\left.\begin{array}{l}
R_1\left\{f\left(v\right)、\wp\left(v\right)\right\}=0\\
R_1\left\{f\left(u+v\right)、\wp\left(u+v\right)\right\}=0
\end{array}\right\}\tag{5}
\]
となる。また一方において$\wp$関数は代数的加法公式をもつから
\[
R_2\left\{\wp\left(u+v\right)、\wp\left(u\right)、\wp\left(v\right)\right\}=0\tag{6}
\]
の代数的関係式も成立する。そこで(4)、(5)、(6)の四式から$\wp\left(u\right)、\wp\left(v\right)、\wp\left(u+v\right)$を消去すれば
\[
R_3\left\{f\left(u+v\right)、f\left(u\right)、f\left(v\right)\right\}=0
\]
のような関係を得る、ここに$R_3$は前の$R$と同じく定数のみを係数とする有理整関数を示す。この結果はすなわち$f\left(u\right)$の関数の加法公式に他ならない。ゆえに
 定理 5。 楕円関数はすべて代数的加法公式をもつ。
 以上の五定理はいずれも楕円関数に共通の性質であるが、その逆が成立するかどうかを次に考えてみよう。
 定理1の逆は“$\wp$及び$\wp’$の有理関数は楕円関数である”となる、これはもちろん真である。
 定理2の逆は“二つの楕円関数の間に代数的関係式が成立すれば、両者は同じ周期平行四辺形に属する”となる。これは両関数の周期が全部一致するという意味ではない、両者が共通のある周期をもつという意味で、それは真である。
 次に定理3について逆を考えてみると、
\[
R\left\{f\left(u\right)、f’\left(u\right)\right\}=0\hspace{1cm}\left(Rの意味は前の通り\right)
\]
の関数$f\left(u\right)$は必ずしも楕円関数とはいえないから、逆がただちに成立するわけではないが、もしさらに$f\left(u\right)$が無限多価関数でないことを仮定すればこのような$f\left(u\right)$は
$u$の代数関数、$e^{cu}$($c$は定数)の代数関数、$u$の楕円関数の代数関数

の三種に限られる。

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