標準形1
前回の方法では三つのαにある特別な三つのβの値を対応させましたが、今度は方法をかえて四つのαに四つのβの値を対応させることにします。但し、その代わり四つのβに次のようなkの任意定数(パラメーター)を含ませてそれで対応が出来るようにします。
α0α1α2α311k−1−1k , φ1(ζ)=c(1−ζ2)(1−k2ζ2)
そうすれば前回の(3)によって
α1−α0α1−α2α3−α2α3−α0=1k−11k+1 −1k+1−1k−1
の関係が成立しなければならないことが分かります。これによってkの値が定められることになります。この左辺は一つの既知数です。これを前の通りλとすれば、
λ=1k−11k+1 −1k+1−1k−1=(1−k1+k)2
よって
k=1−√λ1+√λ または k=1+√λ1−√λ
但し、√λはλの二つの平方根の内のいずれか一方を表すものとします。
さてkをこのような値として、所要の変換を行う式を求めるには、例えばα1の位置に変数をおいて
z−α0z−α2α3−α2α3−α0=ζ−1ζ+1−1k+1−1k−1=ζ−1ζ+11−k1+k=±ζ−1ζ+1√λ
とすればよいです。この変換によって前回の(1)は次のようになります。
∫R1{ζ,√c(1−ζ2)(1−k2ζ2)}dζ
定数cは根号の外に出すと考えれば最初からc=1としてよいです。よって任意の楕円積分について考える代わりに
∫R{z,√(1−z2)(1−k2z2)}dz
について考えればよいことになります。(1)の積分に対して前々回の所論を適用すれば、結局これは次の四つの積分に帰着することになります。
I0=∫dz√(1−z2)(1−k2z2), I1=∫zdz√(1−z2)(1−k2z2)I2=∫z2dz√(1−z2)(1−k2z2), J1=∫dz(z−a)√(1−z2)(1−k2z2)}
以上の中で、I1においてはz2=tとおけば
I1=12∫dt√(1−t)(1−k2t)
となってこれは容易に初等関数で積分が出来るから問題ないです。次にI2は下のように書き直されます。
I2=1k2{∫dz√(1−z2)(1−k2z2)−∫√1−k2z21−z2dz}
この右辺にある第一の積分はすなわちI0です。故にI2の代わりに
∫√1−k2z21−z2dz
のみを新たに採ればよいということになります。最後にJ1を書き直せば、
J1=∫zdz(z2−a2)√(1−z2)(1−k2z2)+a∫dz(z2−a2)√(1−z2)(1−k2z2)
となります。この右辺の第一の積分はz2=tとおけば容易に初等関数で表すことができます。ゆえにJ1の代わりに新たに
∫dz(z2−a2)√(1−z2)(1−k2z2)
のみを採ることにしましょう。よって(2)の代わりに次の三つの積分を考えればよいことになります。
∫dz√(1−z2)(1−k2z2) , ∫√1−k2z21−z2dz∫dz(z2−a2)√(1−z2)(1−k2z2)}
以上すべてφ(z)を四次式と考えて議論していましたが、これが三次式の場合でも全く同様に取り扱えます。すなわちその場合には四つのαのうち三つはφ(z)=0の根、残りの一つは∞と考えて上の通りの計算を行えばよいので、その結果はやはり(3)の三つの積分に帰着します。(一つのαを∞と考えることは、√φ(z)の分岐点が一つ∞にあることからも明らかであるし、また三次方程式φ(z)=0は四次方程式のz4の項の係数が0に収束した極限と考えられることからも明らか。)
前回及び本回の結果をまとめて次のようにいうことが出来ます。任意の楕円積分は初等関数及び次の三種の積分を用いて表される。
∫dz√(1−z2)(1−k2z2)∫√1−k2z21−z2dz∫dz(z2−a2)√(1−z2)(1−k2z2)
この三種の積分を楕円積分の標準形といい、上記の順で上からそれぞれ第一種、第二種、第三種の標準形という、kを母数、aをパラメーターという。
なお上の理論におけるβの定め方次第でこれとは違った形の積分を標準形として選定することも出来る、よって特に他の標準形と区別するときには、これをLegendre-Jacobi の標準形という。
もし前回に述べたように根号の中をz(1−z)(1−λz)の形のままにしておけば、三種の標準形として次の積分を得ます。
∫dz√z(1−z)(1−λz) , ∫zdz√z(1−z)(1−λz) , ∫dz(z−a)√z(1−z)(1−λz)
これをRiemannの標準形といいます。
しかし以下ではLegendre-Jacobi の方のみを用いるからこれを単に標準形と呼ぶことにします。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017