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第08講:第1種楕円積分の逆関数と周期関数

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第1種楕円積分の逆関数

$\varphi\left(z\right)$が重解をもたない三次式または四次式のとき、第一種楕円積分
\[
u=\int^z\frac{dz}{\sqrt{\varphi\left(z\right)}}\tag{1}
\]
は$z$の多価関数で、その一つの値を$u_0$とすれば一般の値は
\[
u_0+mP\left(A\right)+nP\left(B\right)\ \ 及び\ \ Q-u_0+mP\left(A\right)+nP\left(B\right)\hspace{1cm}\left(m,nは整数\right)
\]
で与えられます。$P\left(A\right),P\left(B\right)$は周期関数、$Q$は一つの定数である。さてこれから我々が考えようとするのはその逆関数です。すなわち$z$を$u$の関数として考えてみましょう。これを仮に
\[
z=f\left(u\right)
\]
と名付けます。

まず$f\left(u\right)$が$u$の一価関数となることを証明すべきですが、それは便宜上後半にまわします。

次に$f’\left(u\right)$を考えてみると
\[
f’\left(u\right)=\frac{dz}{du}=\sqrt{\varphi\left(z\right)}\tag{2}
\]
であるから、$z$が有限のときは$f\left(u\right)$は常に正則です。$z$が無限大となるのはすなわち$f\left(u\right)=\infty$となることで、$f\left(u\right)$が極をもつことにほかなりません。また(2)ではもちろん$u$は有限と考えているので、$u=\infty$における$f\left(u\right)$の状態はこれではわかりませんね。故に$f\left(u\right)$は$u=\infty$を除いていたるところ有理型です。

次に特筆すべき$f\left(u\right)$の性質はその周期性です。一般にある関数$F\left(u\right)$においてゼロでない定数$\omega$について
\[
F\left(u+\omega\right)=F\left(u\right)
\]
の関係が$u$の任意の値について成立するとき、この関数を周期関数といい、$\omega$をその周期といいます。今考える関数$f\left(u\right)$においては
\[
mP\left(A\right)+nP\left(B\right)\hspace{1cm}\left(m,nは任意の整数\right)
\]
の形の数はすべて周期です。なぜならば$u$に上記の数を加えたものはやはりただの$u$と同じ$z$の値に対応するということです。すなわち
\[
f\left\{u+mP\left(A\right)+nP\left(B\right)\right\}=f\left(u\right)
\]
が成り立つからです。故に$f\left(u\right)$は周期関数です。

周期関数

周期性の話が出たついでに、一般に一価解析関数で周期的なものについてその重要な2,3の性質を述べておきます。本回でいう関数$f\left(u\right)$は必ずしも楕円積分の逆関数ではなく、任意の一価解析周期関数です。

定理1. $f\left(u\right)$が$\omega$の周期をもつときは、$\omega$の整数倍もまた$f\left(u\right)$の周期である。

これは明らかです。なぜならば仮定により
\[
f\left(u+\omega\right)=f\left(u\right)
\]
従って
\[
f\left(u+2\omega\right)=f\left(u+\omega+\omega\right)=f\left(u+\omega\right)=f\left(u\right)
\]
のようにすればよい(数学的帰納法)。ここでいう整数倍はもちろん負の場合をも含む、ゼロ倍を含めてもよいです。ただし$0$を周期ということにすれば全ての関数はみな周期的ということになるから、周期関数を定義するときは$0$の周期は除く必要がありますが、今後周期に関する諸定理を述べるときには$0$をも一つの周期とする方が便利です。

定理2. $f\left(u\right)$が$\omega_1$及び$\omega_2$の周期をもつときは、
\[
m_1\omega_1+m_2\omega_2\hspace{1cm}\left(m_1,m_2は任意の整数\right)
\]
もまた$f\left(u\right)$の周期である。

$m_1\omega_1$及び$m_2\omega_2$が周期であることは定理1から導けます。そこで
\[
f\left(u+m_2\omega_2\right)=f\left(u\right)
\]
において$u$の代わりに$u+m_1\omega_1$を入れれば
\[
f\left(u+m_1\omega_1+m_2\omega_2\right)=f\left(u+m_1\omega_1\right)=f\left(u\right)
\]
よって本定理を得ることができます。

同様に、もし$f\left(u\right)$が$\omega_1,\omega_2,\omega_3,\cdots$の周期をもつときは、それらの整数倍の和$m_1\omega_1+m_2\omega_2+m_3\omega_3+\cdots$もまた$f\left(u\right)$の周期であることが証明されます。
以上の定理によって明らかなように、一つの周期関数は無数に多くの周期をもちます。数平面上においてこれらの周期を表す点を名付けて周期点といいます。

例えば$\sin u$の関数についていえば実軸上の$u=n\pi$($n$は整数)の点が周期点です。

定理3. $f\left(u\right)$が定数でなければ、そのすべての周期点の集合は無限遠点のみに集積する。

まず有限の点には集積しないことを証明しましょう。仮に有限の一点$a$に集積すると考えれば、任意の正数$\varepsilon$に対して
\[
\left|\omega_1-a\right|<\frac{\varepsilon}{2} , \left|\omega_2-a\right|<\frac{\varepsilon}{2} \] のような周期$\omega_1$、$\omega_2$が必ず存在します。そうすれば \[ \left|\omega_1-\omega_2\right|<\varepsilon \] で、ここに$\omega_1-\omega_2$はまた一つの周期であるから、$\varepsilon$を十分小さくとることによって結局絶対値がいくらでも小さい周期が存在することになります。 そこで今$f\left(u\right)$が正則な任意の閉面分$G$をとって、その内部の一点を$u_0$とし、また前述の理によって絶対値が次第に限りなく小さくなります(例えば逐次にその前のものの半分以下になるように)無数に多くの周期$\omega',\omega^{''},\cdots$をとれば、 \[ f\left(u_0\right)=f\left(u_0+\omega'\right)=f\left(u_0+\omega^{''}\right)=\cdots \] の関係が成立し、ここに$u_0+\omega',u_0+\omega^{''},\cdots$をすべて$G$内にあるようにすることが出来ます。上式の各辺の値を$c$とすれば、関数論における一致の定理により恒等的に$f\left(u\right)=c$すなわち定数でなければなりません。故に定数でない$f\left(u\right)$の周期点は有限の集積点をもち得ないことがわかります。 しかし周期点は数平面上に無数に多くあるからどこかに少なくとも一つ集積点をもたなければなりません。すると有限の点は集積点とはならないことが上に証明されたのであるから、無限遠点が集積点でなければなりません。 注意:定理3では$f\left(u\right)$の一価関数であることが重要な仮定です。もし一価でなければ$f\left(u_0\right),f\left(u_0+\omega'\right),\cdots$等が必ずしも$f\left(u\right)$の同一分枝に属さず、従って$f\left(u\right)=c$の結論が得られません。 さて今関数$f\left(u\right)$のすべての周期点を数平面上に印したとして、その中の原点以外の一点を$\omega$とし、$\omega$と原点を通る直線を引けば、その上には$0$及び$\omega$以外の周期点が無数に多くのっています(例えば$2\omega,3\omega,\cdots$等)。しかし定理3により、それらの点は有限の所には集積しないはずですから、その中で原点に最も近い点というのが無ければなりません。それはその直線上の原点の両側に等距離の位置に一つずつ、合わせて二つあるはずです。今その一つを$\omega_0$とします。 $\omega_0$の整数倍に当たる点がみな上記の直線上にあることはもちろんであるが、この直線上にはその他に周期点のないことも容易に証明されます。なぜならば、もし$\omega_0$の整数倍以外にこの直線上に$\varOmega$の周期点があったとすれば、これに対して \[ \varOmega=n\omega_0+\omega' , 0<\left|\omega'\right|<\left|\omega_0\right| \] のような整数$n$及び剰余$\omega'$を決定することが出来ます。この$\omega'$はやはり同じ直線上にあって、$\varOmega$及び$n\omega_0$がいずれも周期であるから、$\omega'$もまた周期です。それならば該当する直線上に$\omega_0$よりも原点に近い周期点$\omega'$のものが存在するということになって、仮定に反します。 $f\left(u\right)$が前記の直線外には周期点をもたないならば、これを単一周期関数といい、$\pm\omega_0$をその基本周期といいます。よって次の定理がいえます。

定理4. 単一周期関数のすべての周期は一つの基本周期の整数倍として表される。基本周期は二つある、一つを$\omega_0$とすれば他の一つは$-\omega_0$である。

次は単一でない周期関数について考えてみましょう。
 
単一周期でなければ前に述べた$\overline{0\omega_0}$の直線以外になお周期点があるから、その一つを$\omega_1$とする。そこで二つの線分$\overline{0\omega_0}$、$\overline{0\omega_1}$を二辺とする平行四辺形を作れば、その周囲及び内部にある周期点の数は有限です。なぜなら、もし無数に多くあれば有限の所に集積点が出来て定理3に反するからです。そこでこの平行四辺形の周囲及び内部にある有限個の周期点の中で辺$\overline{0\omega_0}$に最も近い点をとり(もちろん$0$、$\omega_0$は除いて)、これを$\omega_2$とします。そこでさらに$\overline{0\omega_0}$と$\overline{0\omega_2}$を二辺とする平行四辺形を作ると、今度はその四つの頂点の他には周囲にも内部にも周期点は存在しません。これは直線$0\omega_0$上では$\omega_0$が$0$に最も近いことと、また$\omega_2$が直線$0\omega_0$に最も近いことからただちに出る結果です。

この最後の平行四辺形と合同な平行四辺形を上下左右に隙間なく並べて数平面を覆うと考えれば、その頂点は
\[
m\omega_0+n\omega_2\hspace{1cm}\left(m,nは整数\right)
\]
の位置にあってこれらはみな周期点です。そうしてこれらの他には周期点は存在し得ません。もし他に周期点があったとすれば隙間なく並べた平行四辺形のいずれかの内部又は周上にあるはずだからです。従ってこれに$\omega_0$及び$\omega_2$の適当な整数倍を加減すれば結局最初の$\overline{0\omega_0},\overline{0\omega_2}$を二辺とする平行四辺形の内部または周上に周期点がなければならないことになって、矛盾します。
このような場合の関数$f\left(u\right)$を二重周期関数といい、$\omega_0$、$\omega_2$を一対の基本周期といいます。

定理5. 二重周期関数のすべての周期は一対の基本周期のそれぞれの整数倍の和として表される。
そこで次に起きる問題は一つの二重周期関数の基本周期は唯一対に限るか否かということである、次にこれを考える。

今一つの関数$f\left(u\right)$が二対の基本周期$\left(\omega,\omega’\right)$及び$\left(\varOmega,\varOmega’\right)$をもっていたとします。すなわち$f\left(u\right)$のすべての周期は($m,n,\mu,\nu$をあらゆる整数として)$m\omega+n\omega’$の形にもまた$\mu\varOmega+\nu\varOmega’$の形にも表されるものとします。それならば特別の場合として$\left(\varOmega,\varOmega’\right)$自身が$\left(\omega,\omega’\right)$で、また$\left(\omega,\omega’\right)$自身が$\left(\varOmega,\varOmega’\right)$で次のように表されなければなりません。
\[
\left.\begin{array}{c}\varOmega=a\omega+b\omega’\\\varOmega’=c\omega+d\omega’\end{array}\right\}\tag{1}
\]
\[
\left.\begin{array}{c}\omega=\alpha\varOmega+\beta\varOmega’\\\omega’=\gamma\varOmega+\delta\varOmega’\end{array}\right\}\tag{2}
\]
係数$a,b,c,d$及び$\alpha,\beta,\gamma,\delta$はすべて整数です。(2)を(1)に代入すれば
\[
\left.\begin{array}{c}\varOmega=\left(a\alpha+b\gamma\right)\varOmega+\left(a\beta+b\delta\right)\varOmega’\\\varOmega’=\left(c\alpha+d\gamma\right)\varOmega+\left(c\beta+d\delta\right)\varOmega’\end{array}\right\}\tag{3}
\]
となります。ここで注意すべきことは、$\varOmega$及び$\varOmega’$は原点とともに一直線上にはないことです。なぜならばもし原点とともに一直線上にあれば$\mu\varOmega+\nu\varOmega’$の形の数もすべてその直線上にあって結局$f\left(u\right)$は単一周期関数になるからです。そこで(3)の第一式の右辺を見ると、係数$\left(a\alpha+b\gamma\right)$及び$\left(a\beta+b\delta\right)$はともに実数であるからもし後者が$0$でなければこの右辺の値は$\varOmega$とは異なる偏角をもつことになります。従ってもちろんこれが左辺の$\varOmega$と等しい偏角をもつことは出来ません。故に必ず$a\beta+b\delta=0$です。従って$a\alpha+b\nu=1$でなければなりません。第二式についても同様に、結局
\[
\begin{pmatrix}a\alpha+b\gamma & a\beta+b\delta \\ c\alpha+d\gamma & c\beta+d\delta\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}1 & 0 \\ 0 & 1\end{pmatrix}
\]
となることがわかります。よって
\[
\begin{vmatrix}a\alpha+b\gamma & a\beta+b\delta \\ c\alpha+d\gamma & c\beta+d\delta\end{vmatrix}
=\begin{vmatrix}a & b \\ c & d\end{vmatrix}\cdotp
\begin{vmatrix}\alpha & \beta \\ \gamma & \delta\end{vmatrix}
=1
\]
すなわち
\[
\left(ad-bc\right)\left(\alpha\delta-\beta\gamma\right)=1
\]
するとこの左辺の各括弧内の式は整数を表すはずですから、上式が成立するためには
\[
ad-bc=\pm1\hspace{1cm}かつ\hspace{1cm}\alpha\delta-\beta\gamma=\pm1
\]
でなければなりません。故に$f\left(u\right)$の一対の基本周期を$\left(\omega,\omega’\right)$とすれば、同関数の他の基本周期は(もしあれば)すべて
\[
\left(a\omega+b\omega’,c\omega+d\omega’\right)\hspace{1cm}\left(a,b,c,dは整数、かつad-bc=\pm1\right)
\]
の形で表されるものです。

逆にまた上記のような組の数
\[
\varOmega=a\omega+b\omega’\ ,\ \ \varOmega’=c\omega+d\omega’
\]
をとってみると、これから
\[
\pm\omega=d\varOmega-b\varOmega’\ ,\ \ \pm\omega’=-c\varOmega+a\varOmega’
\]
を得ます。従って$m\omega+n\omega’$の形の数はすべて$\varOmega,\varOmega’$の整数倍の和として表されることがわかります。故に$\left(\varOmega,\varOmega’\right)$は一対の基本周期です。
さて$ad-bc=\pm1$のような整数$a$、$b$、$c$、$d$を求めることは初等整数論で容易に解決される問題で、しかもこのような整数の組は無数に多くある。
故に次の定理が言えます。

定理6. 一つの二重周期関数は無数に多くの基本周期をもつ。その中の任意の一対を$\left(\omega,\omega’\right)$とすれば、すべての基本周期は
\[
\left(a\omega+b\omega’,c\omega+d\omega’\right)
\]
の形で表される、ここに$a,b,c,d$は整数でかつ
\[
ad-bc=\pm1
\]
の関係をもつものとする。

周期点$m\omega+n\omega’$の全体は数平面上において縦横に整列した格子点を表します。$\left(\omega,\omega’\right)$を一対の基本周期に選んだという事は、$\overline{0\omega},\overline{0\omega’}$を二辺とする平行四辺形を基本として全平面をこれと合同な平行四辺形の網の目で覆って、すべての格子点をちょうどその網の結び目に当たらせるようにしたということです。すなわち、単なる格子点の集合の上に網を張ってこれを系統立てたのです。
基本周期のとり方に種々あるということは、同一の格子点の集合を系統立てるのに、網の目の張り方が種々に可能であるという事に他なりません。
さて以上の議論によると、一価の周期関数は単一周期かそうでなければ当然二重周期となるのであって、三重以上の周期関数というものは(一価関数では)有り得ないのです。すなわち、

定理7. 一価解析関数で周期的なものは単一または二重周期関数に限る。

が言えます。一般の周期関数に関する議論はここに留めて、次からは再び第一種楕円積分の逆関数の考察に戻ることにしましょう。

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