乗法公式
前回得た加法公式においてv=uとおけばsn 2u,cn 2u,dn 2uをsn u,cn u,dn uで表した式を得ることができます。前回の最後の2つの公式を二倍公式と呼ぶことにしましょう。
さらに加法公式においてv=2uとおき、ここに二倍公式を代入すれば、sn 3u等をsn u等で表した三倍公式を得ることもできます。順番にこのような加法公式を反復使用すれば何倍公式でも求められるはずです。これらの公式を総称して乗法公式といいます。
乗法公式を算出するには次のような方法をとるのが便利です。
まずnを任意の自然数とするとき、nが奇数ならば
{sn nu=xAn(x2)Dn(x2)cn nu=yBn(x2)Dn(x2)dn nu=zCn(x2)Dn(x2)
nが偶数ならば
{sn nu=xyzAn(x2)Dn(x2)cn nu=Bn(x2)Dn(x2)dn nu=Cn(x2)Dn(x2)
とおくことが出来ます(これは数学的帰納法で示せます)。ただし、
x=sn u, y=cn u, z=dn u
です。またAn,Bn,Cn,Dnは各x2の多項式です。
n=1,2の場合は
A1=1, B1=1, C1=1, D1=1
及び
{A2=2B2=1−2x2+k2x4C2=1−2k2x2+k2x4D2=1−k2x4
とします。
次に加法公式においてu,vをそれぞれnu,nuまたはnu,(n+1)uとおき、ここに(1)または(2)を代入します。例えばsnの加法公式におけるu,vを共にnuとすれば、
sn 2nu=2sn nu cn nu dn nu1−k2sn4nu
よって今nを奇数とすれば
xyzA2nD2n=2xAnDnyBnDnzCnDn1−k2x4An4Dn4=2xyzAnBnCnDnDn4−k2x4An4
したがって
A2n=2AnBnCnDnD2n=Dn4−k2x4An4
またnを偶数とすれば
xyzA2nD2n=2xyzAnDnBnDnCnDn1−k2x4y4z4An4Dn4=2xyzAnBnCnDnDn4−k2x4y4z4An4
したがって
A2n=2AnBnCnDnD2n=Dn4−k2x4y4z4An4
このようにして種々の場合を調べると結局次の関係式を得ることができます。
nが奇数のとき
{A2n=2AnBnCnDnB2n=y2Bn2Dn2−x2z2An2Cn2C2n=z2Cn2Dn2−k2x2y2An2Bn2D2n=Dn4−k2x4An4
{A2n+1=AnBn+1Cn+1Dn+y2z2An+1BnCnDn+1B2n+1=BnBn+1DnDn+1−x2z2AnAn+1CnCn+1C2n+1=CnCn+1DnDn+1−k2x2y2AnAn+1BnBn+1D2n+1=Dn2Dn+12−k2x4y2z2An2An+12
nが偶数のとき
{A2n=2AnBnCnDnB2n=Bn2Dn2−x2y2z2An2Cn2C2n=Cn2Dn2−k2x2y2z2An2Bn2D2n=Dn4−k2x4y4z4An4
{A2n+1=y2z2AnBn+1Cn+1Dn+An+1BnCnDn+1B2n+1=BnBn+1DnDn+1−x2z2AnAn+1CnCn+1C2n+1=CnCn+1DnDn+1−k2x2y2AnAn+1BnBn+1D2n+1=Dn2Dn+12−k2x4y2z2An2An+12
試しにA3,⋯,A4,⋯を計算すれば次のようになります。
{A3=3−4(1+k2)x2+6k2x4−k4x8B3=1−4x2+6k2x4−4k4x6+k4x8C3=1−4k2x2+6k2x4−4k2x6+k4x8D3=1−6k2x4+4k2(1+k2)x6−3k4x8
{A4=4−8(1+k2)x2+20k2x4−20k4x8+8k4(1+k2)x10−4k6x12B4=1−8x2+4(2+5k2)x4−8k2(3+4k2)x6+2k4(27+8k2)x8−8k4(3+4k2)x10+4k4(2+5k2)x12−8k6x14+k8x16C4=1−8k2x2+4k2(5+2k2)x4−8k2(4+3k2)x6+2k2(8+27k2)x8−8k4(4+3k2)x10+4k6(5+2k2)x12−8k8x14+k8x16D4=1−20k2x4+32k2(1+k2)x6−2k2(8+29k2+8k4)x8+32k4(1+k2)x10−20k6x12+k8x16
注意:加法公式を利用してAn,⋯からAn+1,⋯を求めます。関係式を作ると、それによって出来るAn+1Dn+1,⋯が既約分数でないという不便が伴うことがあります。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017