不定積分
sn等の関数の微分法は第09回の議論で容易に分かりますが、積分法はそう簡単には出来ません。本回では一般に
A(x,y,z)B(x,y,z)
の形の関数の積分法を述べることにします。ただし、
x=sn u, y=cn u, z=dn u
またA,Bは係数がすべて定数の多項式を表します。
まずy2=1−x2,z2=1−k2x2の関係を利用することによってA及びBの中にはy,zの二乗以上の冪が含まれないようにすることが出来ます。その後(1)の分母分子に
B(x,−y,z)B(x,y,−z)B(x,−y,−z)
をかけて、その結果をさらに整頓すれば、分母はxのみの多項式となり分子にはy,zの二乗以上の冪が含まれないようになります。よって結局(1)は
R1(x)+yR2(x)+zR3(x)+yzR4(x)
となる、ここでRは有理関数です。
さて(2)の各項を積分しなければなりませんが、まず最後の項をとれば
∫yzR4(x)du=∫R4(x)dx(注意: dxdu=yz)
となって、これは有理関数の積分であるから容易に出来ます。同様の考えにより、
∫yR2(x)du=∫R2(x)√1−k2x2dx∫zR3(x)du=∫R3(x)√1−x2dx
であるが、これらも共に積分可能であることは明らかです。最後に残ったR1(x)を積分するためにこれを部分分数に分解すると結局次の二種の項に分けられます。
xm, (x−a)−m
ただしmは0または正の整数、aは一般には複素定数です。これらの積分を求めるには次に述べるような漸化式によります。
まず微分法により
ddu(xm−3yz)=(m−3)xm−4y2z2−xm−2z2−k2xm−2y2=(m−1)k2xm−(m−2)(1+k2)xm−2+(m−3)xm−4
です。ゆえに
Im=∫xmdu
とおけば、
xm−3yz=(m−1)k2Im−(m−2)(1+k2)Im−2+(m−3)Im−4
の関係を得ます。これによって、Imを求めることは結局
I2=∫sn2udu, I1=∫sn udu
の二つに帰着します。
またx−a=tとおけば
ddu(t−m+1yz)=(−m+1)t−my2z2−t−m+1x(z2+k2y2)=−(m−1)(1−a2)(1−k2a2)t−m+(2m−3)(1+k2−2k2a2)at−m+1+(m−2)(1+k2−6k2a2)t−m+2−(2m−5)2k2at−m+3−(m−3)k2t−m+4
であることも分かります。よって
Jm=∫dutm
とおけば一般にJmを求めることは
J1, J0, J−1, J−2
を求めることになります。ところが
J0=∫du, J−1=∫(x−a)du, J−2=∫(x−a)2du
だから、前の(3)の他に新たに考えるべき積分は
J1=∫dusn u−a
ただ一つとなります。もし特にaの値が(1−a2)(1−k2a2)=0を満たすときは(4)の右辺の第一項が消滅するからJ1もJ0,J−1,J−2に帰着させられ、(5)を考えることは不要となります。
さてこうしていよいよ最後に残された積分は(3)及び(5)になりますが、その中I1は次のように既知関数で表されます。
[1]まずu=2vとおけば
I1=∫sn udu=2∫sn2vdv=2∫2sn v cn v dn v1−k2sn4vdv
さらにsn2v=tとおけば
I1=2∫dt1−k2t2=1klog1+kt1−kt
ゆえに
I1=1klog1+ksn2u21−ksn2u2
となります。
[2]まずsn u=xとおけば
I1=∫sn udu=∫xdx√(1−x2)(1−k2x2)
次にx2=tとおけば
I1=12∫dt√(1−t)(1−k2t)=−1klog(k√1−t+√1−k2t)=−1klog(kcn u+dn u)
I2及びJ1は上のようには処理できませんが、これらはsn u=xを変数として表せば
I2=∫x2dx√(1−x2)(1−k2x2), J1=∫dx(x−a)√(1−x2)(1−k2x2)
となります。これは第二種及び第三種の楕円積分に他なりません。これらの計算法は次回以降で詳しく論じることにします。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017