実楕円関数
実楕円関数を標準形に直すときにはその母数を0≤k≤1を満たすようにできることは第4回で証明しました。このような特別な母数をもつ楕円関数sn,cn,dn等は実用問題にもしばしば現れますし、また前回までに取り扱ってきた一般のものよりも簡単で理解しやすい点もあるため、以下特にこれについて述べることにします。
u=∫x0dx√(1−x2)(1−k2x2)(0≤k≤1)
において、今
x=sinφ
とおけば
u=∫φ0dφ√1−k2sin2φ
となります(今後この形の積分も第一種楕円積分と呼びます。)。ただしφは実変数、したがってxは0≦|x|≦1であるものと考えます。uをφの関数と考えれば単調増加関数です。それはdudφを考えればただちに分かります。したがってφをuの関数と考えても単調増加関数です。この関数を振幅(Amplitude)と名付け
φ=am u
と書くことにしましょう。既に知られているKの定義により
am K=π2
一般に
am(nK)=nπ2(nは整数)
です。
(1)、(2)から
x=sinφ=sinam u
すなわち
sn u=sinam u
となります。同様にして
cn u=cosam u, dn u=Δam u
です。ただしΔ(t)は√1−k2sin2tの関数を示す記号とします。
uとam uの関係は大体正比例に近いです。したがって実変数uに対するsn u、cn u、dn uの変化を示す曲線はそれぞれsinu、cosu、Δuのそれに似たものです。
次に変数uが純虚数となるときのsn u等の値を調べるために
x=it√1−t2
とおけば、
∫x0dx√(1−x2)(1−k2x2)=i∫t0dt√(1−t2)(1−k‘2t2)
の結果を得ます。この各辺をiuに等しいとおけば、これから
x=sn(iu,k), t=sn(u,k′)
を得ることもできます。これを(3)に代入すれば
sn(iu,k)=i sn(u,k′)cn(u,k′)
したがって
sn(iu,k)=√1−sn2(iu,k)=1cn(u,k′)dn(iu,k)=√1−k2sn2(iu,k)=dn(u,k′)cn(u,k′)
の式を得ます。ただし最後の分子を算出するときには
dn2(u,k′)=1−k‘2sn2(u,k′)
となることに注意しなければなりません。
一々母数を添記するのは面倒なので、sn(u,k)は単にsn uとし、sn(u,k′)は¯sn uとする等の規約を設けることにすれば、上の三式は次のようになります。
sn(iu)=i ¯sn u¯cn u, cn(iu)=1¯cn u, dn(iu)=¯dn u¯cn u
ここで、加法定理によりさらに次の公式を得ます。これによって複素変数に対するsn(u+iv)等を実関数をもって表すことが出来たことになります。
{sn(u+iv)=sn u ¯dn v+i cn u dn u ¯sn v ¯cn v¯cn2v+k2sn2u ¯sn2vcn(u+iv)=cn u ¯cn v−i sn u dn u ¯sn v ¯dn v¯cn2v+k2sn2u ¯sn2vdn(u+iv)=dn u ¯cn v ¯dn v−ik2sn u cn u ¯sn v¯cn2v+k2sn2u ¯sn2v
特にv=K′,2K′とおけば次の結果を得ます。
{sn(u+iK′)=1k1sn ucn(u+iK′)=−ikdn usn udn(u+iK′)=−icn usn u{sn(u+2iK′)=sn ucn(u+2iK′)=−cn udn(u+2iK′)=−dn u
sn uの一対の基本周期が4K,2iK′になることは既知のことですが、今回の議論によってcn,dnの基本周期はそれぞれ
4K, 2K+2iK′及び4K, 2iK′
となることがわかります。
uが0とiK′を結ぶ線分上にあるときは
ℜ(sn u)=0, ℑ(sn u)>0
となります。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017