第1種実楕円積分の計算
Landen変換を利用すれば第一種実楕円積分の標準形(母数が0≤k≤1であるもの)の数値を簡便に計算することが出来ます。
前回述べた通り、φ,φ1の間に
tan(φ1−φ)=k′tanφ
の関係があるときは、
∫φ0dφ√1−k2sin2φ=1+k12∫φ10dφ1√1−k12sin2φ1
です。ここで
k1=1−k′1+k′≤k
です。今φからφ1に移ったと同様にφ1からφ2、φ2からφ3、など逐次に変換を行えば、一般に
∫φ0dφ√1−k2sin2φ=1+k121+k22⋯1+kn2∫φn0dφn√1−kn2sin2φn
を得ます。ただしここで
tan(φi−φi−1)=k′i−1tanφi−1(i=1,2,⋯,n; φ0=φ)ki=1−k′i−11+k′i−1≤ki−1(i=1,2,⋯,n; k0=k)
の関係があります。
kiはiが大きくなるに従って次第に小さくなるのみならず実は限りなく0に近づきます(すぐ次に証明します)。ゆえに(4)においてnが十分大きいときには右辺の積分を級数によって計算してもよいです(第9回参照)あるいは被積分関数の中で近似的にkn=0とおいて
∫φ0dφ√1−k2sin2φ=1+k121+k22⋯1+kn2φn
として計算してもよいです。
いずれにしても、与えられたkから出発して順次にk1,k2,⋯を算出しなければならないが、一々(3)を用いるのでは非常に面倒であるからここに次のような工夫をします。
今二つの正数a,b(a>b)をとって
k′=ba
とおけば、
k1′2=1−(1−k′1+k′)2=1−(a−ba+b)2=4ab(a+b)2
よってここで
a1=a+b2, b1=√ab
とおけば、
k′1=b1a1
となります。同様の計算を繰り返せば
a2=a1+b12, b2=√a1b1, k′2=b2a2,a3=a2+b22, b3=√a2b2, k′3=b3a3,⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯an=an−1+bn−12, bn=√an−1bn−1, k′n=bnan, 等
a,bは相異なる正数であるから、その逐次の相加平均及び相乗平均として作られるan,bnなどもすべて異なり、かつその間に
bn−1<bn<an<an−1
の関係が成立します。しかもanはan−1とbn−1の相加平均であるから
an−bn<an−bn−1=an−1−bn−12
従って一般に
an−bn<a−b2n
です。ゆえに
limn→∞an=limn→∞bn=M
の有限確定値が存在します。これによってまた
limn→∞k′n=1, limn→∞kn=0
となることも分かります。
さて上の方法でk′1,k′2,⋯は容易に出せますが、(4)または(5)の計算において実際に必要なのは(1+k1)(1+k2)⋯(1+kn)です。ところがここにまた次のような都合の良い関係があります。
1+k1=1+√1−k′12=1+√1−4ab(a+b)2=2aa+b=aa1
同様にして
1+k2=a1a2, ⋯, 1+kn=an−1an
ゆえに
(1+k1)(1+k2)⋯(1+kn)=aan→aM
です。
(5)にこの結果を入れれば
∫φ0dφ√1−k2sin2φ=aanφn2n
となります。そこで次にはφn2nが問題となります。
元来φとφ1の関係は、φ1はφと共に単調に増し大体において2φに近いもので、下表のような値をとります。
φ0⋯π2⋯π⋯φ10⋯π⋯2π⋯
すなわち
|2φ−φ1|<π, 従って |φ−φ12|<π2
φ1,φ2の関係も全く同様だから
|φ1−φ22|<π2, 従って |φ12−φ222|<π4
次第にこのようにして一般に
|φn−12n−1−φn2n|<π2n
を得ます。これによって
limn→∞φn2n=Φ
の極限値の存在を知ることができます。そこで(6)においてn→∞とすると次の結果を得ます。
∫φ0dφ√1−k2sin2φ=aMΦ
Φを算出するには別に便法はないが、(1)によって逐次にφ1,φ2,⋯を計算するとk′nがまっすぐ1に近づくのでφn2nは意外に早く一定の値(すなわちΦ)に近づきます。
特にφ=π2のときは
φ1=π, φ2=2π, ⋯, φn=2n−1π, ⋯,
従って
Φ=π2
ゆえに
K=∫10dx√(1−x2)(1−k2x2)=∫π20dφ√1−k2sin2φ=aMπ2
同様にしてK′も計算されます。
例えばk=2425のときKを計算してみましょう。この場合にはk′=725だから、
a=25, b=7
とおけば、
a1=16.00000b1=13.22876a2=14.61438b2=14.54854a3=14.58146b3=14.58142a4=14.58144b4=14.58144
よってM=14.58144として
K=aMπ2=2.69314
となります。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017