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第16講:記号及び規約と楕円関数の一般性質

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記号及び規約

前に述べたように、一般に楕円関数といえば一価解析関数で二重周期をもち、かつ無限遠点以外においていたる所有理型であるものを総称するものです。第二章で議論した$\mathrm{sn},\mathrm{cn},\mathrm{dn}$などはいずれも楕円関数であるが、これは楕円積分の逆として導入されたのである。今度は我々は少し立場を変えて、まず楕円関数というものは一般にどのような性質をもつべきかを考え、それによって最も簡単な一つの楕円関数を作成してみましょう。

便宜上これから後に用いる記号を次のように定めておきます。

習慣上、楕円関数の変数は$u$という文字で表すこととし、その一対の基本周期を常に$2\omega_1,2\omega_3$で表します。$2$という因数を付けたのは半周期を考える必要がしばしばあるからです。原点と点$2\omega_1$及び$2\omega_3$をそれぞれ結ぶ線分を二辺とする平行四辺形はすなわち前に述べた基本周期平行四辺形で、その原点に対する頂点を$-2\omega_2$で表すことに定めます。ゆえに
\[
-2\omega_2=2\omega_1+2\omega_3\ \ \ すなわち\ \ \ \omega_1+\omega_2+\omega_3=0
\]
の関係が成立します。

三点$0,2\omega_1,2\omega_3$は一直線上にはないから、$\displaystyle\frac{\omega_3}{\omega_1}$は実数ではありません。すなわちその虚部$\displaystyle\Im\left(\frac{\omega_3}{\omega_1}\right)$は正または負ですが我々はこれを正にするように$\omega$の添字$1,3$を付けるものとします。$\displaystyle\Im\left(\frac{\omega_3}{\omega_1}\right)\gt0$にするということは三点$0,2\omega_1,2\omega_3$をこの順序に一周する向きがちょうど時計の針の回転と反対の向きになることです。証明は容易なので省略します。

周期平行四辺形の限界に関しては次のように決めます。四点$0,2\omega_1,-2\omega_2,2\omega_3$を頂点とする平行四辺形(その他の平行四辺形においてもこれに準ずる)においては、両端を除いた二辺$\left(0,2\omega_1\right)$及び$\left(0,2\omega_3\right)$及び頂点$\mathrm{O}$はこの平行四辺形に属し、他の二辺及び三頂点はこれに属さないものとします。このように定めればこれと合同な平行四辺形を上下左右に並べたとき重複も隙間もなく全平面を覆うことが出来ます。

楕円関数の一般性質

$f\left(u\right)$を楕円関数とすれば
\[
f\left(u+2\omega_i\right)=f\left(u\right)\hspace{1cm}\left(i=1,3\right)
\]
したがって
\[
f’\left(u+2\omega_i\right)=f’\left(u\right)\hspace{1cm}\left(i=1,3\right)
\]
で、また$f’\left(u\right)$は点$\infty$以外においては明らかに有理型です。ゆえに
定理1. 楕円関数の導関数は元と同じ二重周期をもつ楕円関数である。

次の定理もまた楕円関数の定義からただちに出ます。

定理2. $f\left(u\right)$及び$g\left(u\right)$を同じ周期平行四辺形に属する二つの楕円関数とすれば、
\[
f\left(u\right)\pm g\left(u\right),\ \ \ f\left(u\right)g\left(u\right),\ \ \ \frac{f\left(u\right)}{g\left(u\right)}
\]
等もまた同じ平行四辺形に属する楕円関数である。

系. 定数を係数とする$f\left(u\right)$の有理関数もそうである。

ここに“平行四辺形に属する”という意味を説明しておきます。今例えば平行四辺形の四つの頂点を$0,2\omega_1,-2\omega_2,2\omega_3$とすれば、これに属する関数はとにかく$2\omega_1,2\omega_3$を周期とする(必ずしも基本周期でなくてもよい)関数のことです。ゆえに、例えば、$\mathrm{sn}\ u$は$0,4K,4\left(K+iK’\right),4iK’$を頂点とする平行四辺形に属するものともいえます。定理2における$f\left(u\right),g\left(u\right)$は必ずしも同じ基本周期をもつ必要はありません。

定理3. 二重周期をもち、かつ整関数であるものは定数に限る。

なぜならば、今$f\left(u\right)$が二重周期をもって、かつ整関数であるとすれば、一つの周期平行四辺形において$f\left(u\right)$は正則である。したがってそれは有界である。そうすればすべての周期平行四辺形においても同様であるから、結局$f\left(u\right)$は数平面上において無限遠点を除く他はいたる所正則かつ有界である。よって一般関数論におけるLiouvilleの定理により$f\left(u\right)$は定数でなければならない。
 
系1. 一つの周期平行四辺形内でいたる所正則な楕円関数は定数に限る。

一つの周期平行四辺形内にある極の位数の和を称してその楕円関数の位数という。よって系1は次のように換言される。

系2. 第零位の楕円関数は定数である。

また一方において有限な極の集積点(真性特異点)は有り得ないのであるから位数が無限大ということはない。ゆえに楕円関数の位数は必ず有限な正の整数である。

なお次の二つの系はしばしば応用される重要なものである。

系3. 同一の平行四辺形に属する二つの楕円関数のすべての極及びその極における展開式の主部がそれぞれ一致するならば、両変数は定数だけの差をもつものである。

両変数の差を考えて系1を適用すれば容易に証明される。

系4. 同一の平行四辺形に属する二つの楕円関数のすべての極及び零点が(位数まで考えに入れて)それぞれ一致するならば、両変数は定数因数だけで相異なるものである。

両変数の商を考えて系1を適用すれば容易に証明される。
 

さて次に述べる定理4、5、6では複素関数論における留数に関する定理を応用するために楕円関数$f\left(u\right)$またはこれに関連する関数を一つの周期平行四辺形($P$)の周に沿って積分する必要があります。よってその積分路上に被積分関数の極があっては困るのでそのような場合にはあらかじめ適当に$P$を平行移動させて極を避けることとし、そのときの平行四辺形($P’$)の頂点を
\[
a,\ \ \ a+2\omega_1,\ \ \ a-2\omega_2,\ \ \ a+2\omega_3
\]
で表すこととします。($a$を適当にとれば周上に極がないように出来ることは次のいずれの場合についても容易に証明が出来ます。)

そこでまず次の積分を考えます。
\[
\int_{\left(P’\right)}f\left(u\right)du=\int_a^{a+2\omega_1}+\int_{a+2\omega_1}^{a-2\omega_2}+\int_{a-2\omega_2}^{a+2\omega_3}+\int_{a+2\omega_3}^a
\]
すると$f\left(u\right)$の周期性によって明らかに
\[
\int_a^{a+2\omega_1}+\int_{a-2\omega_2}^{a+2\omega_3}=0,\ \ \ \int_{a+2\omega_1}^{a-2\omega_2}+\int_{a+2\omega_3}^a=0
\]
ゆえに
\[
\int_{\left(P’\right)}f\left(u\right)du=0
\]
一方から考えればこの積分の値は$P’$内にある$f\left(u\right)$のすべての極の留数の和、したがってまた$P$内にある極の留数の和、の$2\pi i$倍に等しいはずです。よって次の定理を得ます。

定理4. 楕円関数の一つの周期平行四辺形内にあるすべての極の留数の和は$0$である。

系. 第一位の楕円関数であるものは有り得ない。

なぜならばもしこのような関数$f\left(u\right)$があるとすれば、それは周期平行四辺形内に一位の極(例えば$b$とする)唯一個をもつものである。その極における展開式の主部を
\[
\frac{A}{u-b}\hspace{1cm}\left(A\neq0\right)
\]
とすれば、
\[
\int_{\left(P’\right)}f\left(u\right)du=2\pi iA\neq0
\]
これは定理4に反する。

次に$f\left(u\right)$が楕円関数のとき$\displaystyle\frac{f’\left(u\right)}{f\left(u\right)}$もまた楕円関数であることは定理1,2によって明らかである。よって定理4により
\[
\int_{\left(P’\right)}\frac{f’\left(u\right)}{f\left(u\right)}du=0
\]
となる。すると関数論でよく知られる通りこの積分の値は$P’$内ある$f\left(u\right)$の零点の位数の和から極の位数の和を引いた差の$2\pi i$倍に等しい。よって、次の定理を得る。

定理5. 楕円関数の一つの周期平行四辺形内にある零点の位数の和と極の位数の和は相等しい。

系. 第$n$位の楕円関数は一つの周期平行四辺形内において任意の値を$n$回ずつ取る。

なぜならば$f\left(u\right)$が楕円関数ならば、任意の定数$c$に対して$f\left(u\right)-c$もまた楕円関数である。したがって一つの平行四辺形内で$f\left(u\right)-c=\infty$すなわち$f\left(u\right)=\infty$となる回数と$f\left(u\right)-c=0$すなわち$f\left(u\right)=c$となる回数は等しい。

次にはさらに一歩進んで
\[
\int_{\left(P^\prime\right)}u\frac{f^\prime\left(u\right)}{f\left(u\right)}du
\]
の積分を考える、$f\left(u\right)$はやはり楕円関数とする。平行四辺形の辺を(1)、(2)、(3)、(4)と名付けると
\[
\int_{\left(P^\prime\right)}=\int_{\left(1\right)}+\int_{\left(2\right)}+\int_{\left(3\right)}+\int_{\left(4\right)}
\]
さてここで
\begin{eqnarray*}
\int_{\left(3\right)}=\int_{a-2\omega_2}^{a+2\omega_3}u\frac{f^\prime\left(u\right)}{f\left(u\right)}du&=&\int_{a+2\omega_1}^a\left(v+2\omega_3\right)\frac{f^\prime\left(v+2\omega_3\right)}{f\left(v+2\omega_3\right)}dv\\
&=&-\int_a^{a+2\omega_1}\left(v+2\omega_3\right)\frac{f^\prime\left(v\right)}{f\left(v\right)}dv\\
&=&-\int_a^{a+2\omega_1}v\frac{f^\prime\left(v\right)}{f\left(v\right)}dv-2\omega_3\int_a^{a+2\omega_1}\frac{f^\prime\left(v\right)}{f\left(v\right)}dv\\
&=&-\int_{\left(1\right)}-2\omega_3\left\{\log f\left(a+2\omega_1\right)-\log f\left(a\right)\right\}
\end{eqnarray*}
ここに$\left(a+2\omega_1\right)$と$\left(a\right)$は周期性によってもちろん相等しいが、それらの$\log$は必ずしも相等しくはない。なぜならば$\left(u\right)$の$u$が$a$から(1)に沿って$a+2\omega_1$に行く間に$\left(u\right)$は原点の周りを何周かするかも知れない、もし仮に$k$周(正の向きに計る)するとすれば
\[
\log f\left(a+2\omega_1\right)-\log f\left(a\right)=2k\pi i
\]
となる。そうすると
\[
\int_{\left(1\right)}+\int_{\left(3\right)}=-2\omega_3\cdotp2k\pi i
\]
である。全く同様の計算により
\[
\int_{\left(2\right)}+\int_{\left(4\right)}=2\omega_1\cdotp2h\pi i\hspace{1cm}\left(hは一つの整数\right)
\]
よって結局
\[
\int_{\left(P^\prime\right)}=2\pi i\left(2h\omega_1-2k\omega_3\right)=2\pi i\times\left(一つの周期\right)
\]
となる。するとまた関数論によればこの場合の左辺の積分の値は$P^\prime$内にある$f\left(u\right)$の零点の和と極の和(いずれも位数だけに重複して加える)の差の$2\pi i$倍に等しい。よって次の定理を得る。

定理6. 楕円関数の一つの周期平行四辺形内にある零点の和と極の和の差は一つの周期に等しい。

ただしここにいう周期は必ずしも基本周期ではないことに注意を要する。

以上の諸定理の中で、定理3,4,5,6をそれぞれLiouvilleの第一,第二,第三,第四の定理と呼ぶことがある。

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