℘関数1
以前述べたsn等の楕円関数ではその一対の基本周期(例えば4K,2iK′)は共に母数kの関数で、相互にある関係をもって結び付けられています。ゆえに任意の一対の基本周期を与えたときこれをもつようなsn関数は必ず存在するとは限りません。しかしsn等の既知の関数でなくともとにかく楕円関数で任意に与えられた一対の基本周期(2ω1,2ω3)をもつものは確かに存在します。但し、「任意に与える」といってもℑ(ω3ω1)>0の条件は満足するものと考える必要があります。
今、このような楕円関数の一つを次の式で作ることにしましょう。
f(u)=∑1(u−w)m(w=2h1ω1+2h3ω3; h1,h3=0,±1,±2,⋯)
ここでh1,h3は各々独立にすべての整数値をとるからwはすべての周期点を表すことになります。当分の間はwを常にこの意味で用いることとします。それから上式における∑の順序はw=0から出発して螺旋的に|w|の大きな値に進むものとします。
数平面上においていずれのwをも含まない任意の閉面分をGとします。変数uがGにあるとき、もし上記の級数が一様収束ならばf(u)はuの正則関数である。次にそうなるようにmの値を定めましょう。
uはG内に限られているから|u|<Mとなる一定の正数Mを定めることが出来ます。また|w|は限りなく増大して|w|>Mとなります。 従って |u−w|≥q|w|−|u|>|w|−M ゆえに ∑1(|w|−M)m が収束するならばWeierstrassの定理により ∑1(u−w)m は絶対かつ一様収束で、我々は所望のmの値を得ることができます。 ∑′1|w|m も収束します。ただしここで∑′というのはwのあらゆる値の中w=0だけ除いてその他をすべて加え合わせることを表しており、この記号は今後常にこの意味で用いることとします。(w=0としては一つの分母が0になって不都合)。 (2)の級数における最初の8項は一つの平行四辺形の周上に並んでいます。原点からこの周にいたる最小及び最大の距離をそれぞれr,Rとすれば、今考える8項だけの和(これをs1とする)については 8Rm<s1<8rm の関係が成立します。同様に考えると、次の16項(前の平行四辺形の外側を囲む一回り大きい平行四辺形の周上に並ぶ)の和をs2とすれば 16(2R)m<s2<16(2r)m 同様にして一般に 8n(nR)m<sn<8n(nr)m(n=1,2,3,⋯) が言えます。これらの不等式を辺々加えれば 8Rm∑1nm−1<∑′1|w|m<8rm∑1nm−1 級数∑1nm−1はm−1>1すなわちm>2のときに限り収束することが分かります。ゆえにmの最小な整数値は3です。 さてこれで f(u)=∑1(u−w)3 が数平面上wの点以外においていたる所正則な関数を表すことは解りましたが、これが楕円関数であることを示すには二重周期をもつことと有理型であることを証明しなければなりません。よって今試しに(3)においてuの代わりにu+2ω1を入れてみると f(u+2ω1)=∑1{u−(w−2ω1)}3 となります。するとwはすべての周期の値をとるから、wの全体と(w−2ω1)の全体は結局同一で、ただ∑の中にその現れる順序が違うだけです。しかしこの級数は絶対収束であるため項の順序は変わっても問題ありません。ゆえに(4)の右辺と(3)の右辺は等しいことが言えます。従って f(u+2ω1)=f(u) すなわちf(u)は2ω1の周期をもちます。全く同様にして2ω3の周期をもつことも証明できます。厳密にいえば、これだけでは(2ω1,2ω3)が基本周期であるかどうか判別できませんが、それはすぐ次に述べることでわかります。 さて次は有理型であることを確かめなければなりませんが、既に証明した通りf(u)はw以外の点では正則であるから、残る所のwの点だけを調べればよいことになります。今wの一つをw0とし、 f(u)=1(u−w0)3+∑w+w01(u−w)3 としてみると、右辺の∑の部分はu=w0の十分小さい近傍においては一様収束で従ってuの正則関数を表します。このことは前に(3)がGにおいて一様収束であることを証明したのと全く同様に証明できます。ゆえにf(u)はu=w0において極をもち、その主部は1(u−w0)3であることがわかります。すなわちこの極は第三位です。 すべてのw=2h1w1+2h3w3の点が極で、その他に極がないことから、(2ω1,2ω3)が基本周期であることも分かります。なぜなら、もしこの周期が基本的でなくてさらに細かい周期平行四辺形の網が出来るならばその各図形内にそれぞれ同様の極があるはずで、従ってwの点以外にも極が無数に存在しなければならないからです。 以上を総合すると、f(u)は第三位の楕円関数であることが分かります。そしてf(u)が奇関数であることも(3)の式から分かります。なぜならばwと同時に−wもすべての周期を表すから f(−u)=∑1(−u−w)3=∑1(u+w)3=−∑1(u−w)3=−f(u) となることは明らかなためです。 これで任意の周期をもつ楕円関数を作成するという当初の目的は達成しましたが、その位数が3である所に少し不満足を感じるかもしれません。出来るだけ簡単な関数を得るためにこの位数をなるべく小さくしたいです。しかし前回の定理4の系によって位数が1であることは不可能であることが分かっているので、位数を2にすることを考えてみましょう。 極の位数を下げるためにしばしば用いられる一つの手段は積分です。f(u)を0から任意の一点uまでいずれのwをも通らない経路に沿って積分しようとすると、f(u)は0において既に極をもつので0を積分の下端とするのに都合が悪いからf(u)の代わりにf(u)−1u3を用いることにします。すなわち、 ∫u0{f(u)−1u3}du=∫u0{∑′1(u−w)3}du=∑′∫u0du(u−w)3=−12∑′{1(u−w)2−1w2} よって新たに f1(u)=∑′{1(u−w)2−1w2} とおけば、これはw以外では一様収束級数でuの正則関数を表し、またu=wにおいては明らかに第二位の極をもち、その主部は1(u−w)2です。ただしwは0以外の周期のすべてを表すものでしが、もしw=0においても同様の性質の極をもつ関数を求めるならば f2(u)=1u2+∑′{1(u−w)2−1w2} とすればよいです。これですべての周期点において第二位の極をもつことにはなりましたが、肝心の周期性をもっているかどうかを次に調べなければなりません。 その準備としてまず第一にf2(u)が偶関数であることを証明しましょう。それは f2(−u)=1u2+∑′{1(u+w)2−1w2}=1u2+∑′{1[u−(−w)]2−1(−w)2}=f2(u) で明らかです。また実際に微分して f′2(u)=−2u3+∑′{−2(u−w)3}=−2{1u3+∑′1(u−w)3}=−2∑1(u−w)3=−2f(u) の関係のあることも分かりません。さてf(u)は楕円関数なので f(u+2ω1)=f(u) 従って f′2(u+2ω1)=f′2(u) これを積分すれば f2(u+2ω1)=f2(u)+C ただしCは積分定数です。これを決定するためにu=−ω1とおき、f2(u)が偶関数であることを利用すれば f2(ω1)=f2(−ω1)+C=f2(ω1)+C f2(u)はu=wの点にのみ極をもつのでf2(ω1)は有限値である。よって上の結果からC=0を得ます。すなわち f2(u+2ω1)=f2(u) これでf2(u)は2ω1の周期をもつことが分かります。2ω3が周期であることも同様にして証明できます。ゆえにf2(u)は第二位の楕円関数です。 このf2(u)はWeierstrassの楕円関数論において重要な基本的の関数で、通常℘(u)の記号で表されます。すなわち ℘(u)=1u2+∑′{1(u−w)2−1w2}℘′(u)=−2∑1(u−w)3 これらの関数はいずれも最初に定めた基本周期2ω1,2ω3に関係するものですから、もしこれを明示する必要があるときには℘(u|2ω1,2ω3),℘′(u|2ω1,2ω3)等と書くことになります。 まとめると、℘(u)及び℘′(u)はそれぞれ第二位及び第三位の楕円関数で、かつ前者は偶関数、後者は奇関数です。
参考文献
参考文献は以下の通り。
[1]竹内端三,『楕円関数論』,岩波書店,1936
出版社在庫無し、著作権消失済み。
[2]E.T. Whittaker, et al., A Course of Modern Analysis (AMS PRESS, 1927)
著作権消失済み。
[3]戸田盛和,『楕円関数入門』,日本評論社,2001
[4]戸田盛和,『臨時別冊・数理科学SGC ライブラリ49 ソリトンと物理学』,サイエンス社,2006
同出版社より電子書籍の形で復刊済み。
[5]Landau・Lifshitz,『力学』,東京図書,2017