$\def\bm#1{{\boldsymbol{#1}}}
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楕円関数の表示式
有理関数を式で書き表すときは次の二種の方法のいずれかを用いるとその性質がよく表示されて便利です。一つ目は因数分解式と呼ばれるもので
\[
f\left(z\right)=C\frac{\displaystyle\prod_{i=1}^m\left(z-b_i\right)}{\displaystyle\prod_{i=1}^n\left(z-a_i\right)}\hspace{1cm}\left(Cは定数\right)
\]
のように、その関数の極と零点を明示したものです。もう一つは部分分数式と呼ばれるもので
\[
f\left(z\right)=C+\sum_{i=1}^n\left\{\frac{c_{i,1}}{z-a_i}+\frac{c_{i,2}}{\left(z-a_i\right)^2}+\cdots+\frac{c_{i,k_i}}{\left(z-a_i\right)^{k_i}}\right\}~~~\left(C,cは定数\right)
\]
のように各々の極における展開式の主部を明示したものです。
楕円関数の表示式にもちょうどこれと同様の二種があります。
因数分解式に相当するもの
今、$f\left(u\right)$を楕円関数とし、その一つの周期平行四辺形内にある極及び零点をそれぞれその位数だけずつ重複して列記したものを$a_1,a_2,\cdots,a_n$及び$b_1,b_2,\cdots,b_n$とすれば、以前証明した定理6により
\[
a_1+a_2+\cdots+a_n=b_1+b_2+\cdots+b_n+w
\]
が言えます。ただし$w$はある一つの周期です。そこで、以下では便宜上$b_n+w$のことを単に$b_n$で表すことにします。そうすると正しく
\[
a_1+a_2+\cdots+a_n=b_1+b_2+\cdots+b_n\tag{1}
\]
となり、$b_n$はやはり一つの零点ですが一般には最初に考えた平行四辺形内には存在しないことが分かります。さて、ここで
\[
\varphi\left(u\right)=\frac{\displaystyle\prod_{i=1}^n\sigma\left(u-b_i\right)}{\displaystyle\prod_{i=1}^n\sigma\left(u-a_i\right)}
\]
の関数を作ると、これは極及び零点がことごとく$f\left(u\right)$と一致しています。また、$\varphi\left(u\right)$は$2\omega_1$及び$2\omega_3$の周期をもつことも言えます。なぜならば、
\begin{eqnarray*}
\varphi\left(u+2\omega_1\right)&=&\frac{\displaystyle\prod_{i=1}^n\sigma\left(u-b_i+2\omega_1\right)}{\displaystyle\prod_{i=1}^n\sigma\left(u-a_i+2\omega_1\right)}\\
&=&\frac{\displaystyle\left(-1\right)^ne^{\scriptsize{\displaystyle2\eta_1\sum_{i=1}^n\left(u-b_i+\omega_1\right)}}\prod_{i=1}^n\sigma\left(u-b_i\right)}{\displaystyle\left(-1\right)^ne^{\scriptsize{\displaystyle2\eta_1\sum_{i=1}^n\left(u-a_i+\omega_1\right)}}\prod_{i=1}^n\sigma\left(u-a_i\right)}
\end{eqnarray*}
すると(1)より
\[
\sum_{i=1}^n\left(u-a_i+\omega_1\right)=\sum_{i=1}^n\left(u-b_i+\omega_1\right)
\]
よって
\[
\varphi\left(u+2\omega_1\right)=\varphi\left(u\right)
\]
となります。$2\omega_3$についても全く同様です。
これを用いると$\varphi\left(u\right)$は$f\left(u\right)$と同じ周期をもつ楕円関数で、かつその極及び零点がそれぞれ一致するものであることが分かります。ゆえに定理3と系4により、
\[
f\left(u\right)=C\frac{\displaystyle\prod_{i=1}^n\sigma\left(u-b_i\right)}{\displaystyle\prod_{i=1}^n\sigma\left(u-a_i\right)}\hspace{1cm}\left(Cは定数\right)
\]
が導けます。
部分分数式に相当するもの
前のように楕円関数$f\left(u\right)$の極を$a_1,a_2,\cdots,a_n$と書きますが、今度は位数だけに重複して書くことにせず異なる極のみを書いたとして、その位数をそれぞれ$k_1,k_2,\cdots,k_m$とすることにしましょう。さらに、各極$a_i\left(i=1,2,\cdots,m\right)$における$f\left(u\right)$の展開式の主部を
\[
\frac{A_{i,1}}{u-a_i}+\frac{A_{i,2}}{\left(u-a_i\right)^2}+\cdots+\frac{A_{i,k_i}}{\left(u-a_i\right)^{k_i}}\tag{2}
\]
と考えることにします。そうすれば定理4により
\[
\sum_{i=1}^mA_{i,1}=0\tag{3}
\]
であることが分かります。さて既に知られるように
\[
\begin{array}{rl}
\displaystyle\zeta\left(u\right)=\frac{1}{u}+\cdots,\ & \displaystyle\wp\left(u\right)=\frac{1}{u^2}+\cdots,\ \ \ \wp’\left(u\right)=-\frac{2}{u^3}+\cdots,\\
\cdots,\ & \displaystyle\wp^{\left(k_i-2\right)}\left(u\right)=\left(-1\right)^{k_i}\frac{\left(k_i-1\right)!}{u^{k_i}}
\end{array}
\]
ですから、次のような関数$\varphi_i\left(u\right)$を作ればちょうど$a_i$において(2)と同じ主部の極をもつことになります。
\begin{eqnarray*}
\varphi_i\left(u\right)&=&A_{i,1}\zeta\left(u-a_i\right)+A_{i,2}\wp\left(u-a_i\right)+\frac{A_{i,3}}{2!}\wp’\left(u-a_i\right)\\
&&+\cdots+\left(-1\right)^{k_i}\frac{A_{i,k_i}}{\left(k_i-1\right)!}\wp^{\left(k_i-2\right)}\left(u-a_i\right)
\end{eqnarray*}
よって、
\[
\sum_{i=1}^m\varphi_i\left(u\right)\tag{4}
\]
の関数を作れば、これは$f\left(u\right)$とすべての極を共有するだけではなく、その各極における展開式の主部が全て一致するものとなります。ところで、(4)は$\varphi_i\left(u\right)$の構造を見ると第二項以下は$\wp$及びその逐次の導関数ですからもちろん楕円関数であることになります。ゆえに(4)が楕円関数であるかどうかは、結局、
\[
\sum_{i=1}^mA_{i,1}\zeta\left(u-a_i\right)\tag{5}
\]
の問題に帰着することになります。そこでこの式において$u$を$u+2\omega_1$に変えてみると、
\begin{eqnarray*}
\sum_{i=1}^mA_{i,1}\zeta\left(u-a_i+2\omega_1\right)&=&\sum_{i=1}^mA_{i,1}\left\{\zeta\left(u-a_i\right)+2\eta_1\right\}\\
&=&\sum_{i=1}^mA_{i,1}\zeta\left(u-a_i\right)+2\eta_1\sum_{i=1}^mA_{i,1}
\end{eqnarray*}
この最後の項は(3)より$0$に等しいことが直ちに分かります。よって(5)、$2\omega_1$の周期をもつことになります。$2\omega_3$についても同様です。ゆえに(4)は楕円関数です。そうすれば定理3と系3により、(4)は$f\left(u\right)$と定数だけの差をもつものであることが言えます。よって、
\begin{eqnarray*}
f\left(u\right)&=&C+\sum_{i=1}^m\left\{A_{i,1}\zeta\left(u-a_i\right)+A_{i,2}\wp\left(u-a_i\right)-\frac{A_{i,3}}{2!}\wp’\left(u-a_i\right)\right.\\
&&\left.+\cdots+\left(-1\right)^{k_i}\frac{A_{i,k_i}}{\left(k_i-1\right)!}\wp^{\left(k_i-2\right)}\left(u-a_i\right)\right\}\hspace{1cm}\left(Cは定数\right)
\end{eqnarray*}
楕円関数の積分の表示についてのまとめ
(2)の結果から$f\left(u\right)$の積分を考えてみると、まず$C$の積分は$u$の一次式となり、$\zeta,\wp,\wp’,\wp^{”},\cdots$の積分はそれぞれ$\log\sigma,-\zeta,\wp,\wp’,\cdots$となることが分かります。この中で$\wp,\wp’,\cdots$はつまるところ一つの楕円関数を作るだけなので、総括すれば一般に楕円関数の積分はたかだか四種類の関数から成立することが分かります。