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第15講:第1種実楕円積分の計算

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第1種実楕円積分の計算

Landen変換を利用すれば第一種実楕円積分の標準形(母数が$0\leq k\leq 1$であるもの)の数値を簡便に計算することが出来ます。

前回述べた通り、$\varphi,\varphi_1$の間に
\[
\tan\left(\varphi_1-\varphi\right)=k’\tan\varphi\tag{1}
\]
の関係があるときは、
\[
\int_0^\varphi\frac{d\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}=\frac{1+k_1}{2}\int_0^{\varphi_1}\frac{d\varphi_1}{\sqrt{1-{k_1}^2\sin^2\varphi_1}}\tag{2}
\]
です。ここで
\[
k_1=\frac{1-k’}{1+k’}\leq k\tag{3}
\]
です。今$\varphi$から$\varphi_1$に移ったと同様に$\varphi_1$から$\varphi_2$、$\varphi_2$から$\varphi_3$、など逐次に変換を行えば、一般に
\[
\int_0^\varphi\frac{d\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}=\frac{1+k_1}{2}\frac{1+k_2}{2}\cdots\frac{1+k_n}{2}\int_0^{\varphi_n}\frac{d\varphi_n}{\sqrt{1-{k_n}^2\sin^2\varphi_n}}\tag{4}
\]
を得ます。ただしここで
\[
\begin{array}{c}
\displaystyle\tan\left(\varphi_i-\varphi_{i-1}\right)=k_{i-1}’\tan\varphi_{i-1}\hspace{1cm}\left(i=1,2,\cdots,n;\ \varphi_0=\varphi\right)\\
\displaystyle k_i=\frac{1-k_{i-1}’}{1+k_{i-1}’}\leq k_{i-1}\hspace{1cm}\left(i=1,2,\cdots,n;\ k_0=k\right)
\end{array}
\]
の関係があります。

$k_i$は$i$が大きくなるに従って次第に小さくなるのみならず実は限りなく$0$に近づきます(すぐ次に証明します)。ゆえに(4)において$n$が十分大きいときには右辺の積分を級数によって計算してもよいです(第9回参照)あるいは被積分関数の中で近似的に$k_n=0$とおいて
\[
\int_0^\varphi\frac{d\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}=\frac{1+k_1}{2}\frac{1+k_2}{2}\cdots\frac{1+k_n}{2}\varphi_n\tag{5}
\]
として計算してもよいです。

いずれにしても、与えられた$k$から出発して順次に$k_1,k_2,\cdots$を算出しなければならないが、一々(3)を用いるのでは非常に面倒であるからここに次のような工夫をします。

今二つの正数$a,b$($a\gt b$)をとって
\[
k’=\frac{b}{a}
\]
とおけば、
\[
{k_1′}^2=1-\left(\frac{1-k’}{1+k’}\right)^2=1-\left(\frac{a-b}{a+b}\right)^2=\frac{4ab}{\left(a+b\right)^2}
\]
よってここで
\[
a_1=\frac{a+b}{2},\ \ \ b_1=\sqrt{ab}
\]
とおけば、
\[
k_1’=\frac{b_1}{a_1}
\]
となります。同様の計算を繰り返せば
\[
\begin{array}{c}
\displaystyle a_2=\frac{a_1+b_1}{2},\ \ \ b_2=\sqrt{a_1b_1},\ \ \ k_2’=\frac{b_2}{a_2},\\
\displaystyle a_3=\frac{a_2+b_2}{2},\ \ \ b_3=\sqrt{a_2b_2},\ \ \ k_3’=\frac{b_3}{a_3},\\
\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\cdots\\
\displaystyle a_n=\frac{a_{n-1}+b_{n-1}}{2},\ \ \ b_n=\sqrt{a_{n-1}b_{n-1}},\ \ \ k_n’=\frac{b_n}{a_n},\ 等
\end{array}
\]
$a,b$は相異なる正数であるから、その逐次の相加平均及び相乗平均として作られる$a_n,b_n$などもすべて異なり、かつその間に
\[
b_{n-1} < b_n < a_n < a_{n-1} \] の関係が成立します。しかも$a_n$は$a_{n-1}$と$b_{n-1}$の相加平均であるから \[ a_n-b_n < a_n-b_{n-1}=\frac{a_{n-1}-b_{n-1}}{2} \] 従って一般に \[ a_n-b_n < \frac{a-b}{2^n} \] です。ゆえに \[ \lim_{n\rightarrow\infty}a_n=\lim_{n\rightarrow\infty}b_n=M \] の有限確定値が存在します。これによってまた \[ \lim_{n\rightarrow\infty}k_n'=1,\ \ \ \lim_{n\rightarrow\infty}k_n=0 \] となることも分かります。 さて上の方法で$k_1',k_2',\cdots$は容易に出せますが、(4)または(5)の計算において実際に必要なのは$\left(1+k_1\right)\left(1+k_2\right)\cdots\left(1+k_n\right)$です。ところがここにまた次のような都合の良い関係があります。 \[ 1+k_1=1+\sqrt{1-{k_1'}^2}=1+\sqrt{1-\frac{4ab}{\left(a+b\right)^2}}=\frac{2a}{a+b}=\frac{a}{a_1} \] 同様にして \[ 1+k_2=\frac{a_1}{a_2},\ \cdots,\ 1+k_n=\frac{a_{n-1}}{a_n} \] ゆえに \[ \left(1+k_1\right)\left(1+k_2\right)\cdots\left(1+k_n\right)=\frac{a}{a_n}\rightarrow\frac{a}{M} \] です。 (5)にこの結果を入れれば \[ \int_0^\varphi\frac{d\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}=\frac{a}{a_n}\frac{\varphi_n}{2^n}\tag{6} \] となります。そこで次には$\displaystyle\frac{\varphi_n}{2^n}$が問題となります。 元来$\varphi$と$\varphi_1$の関係は、$\varphi_1$は$\varphi$と共に単調に増し大体において$2\varphi$に近いもので、下表のような値をとります。 \[ \begin{array}{c|cccccc} \varphi & 0 & \cdots & \displaystyle\frac{\pi}{2} & \cdots & \pi & \cdots \\\hline \varphi_1 & 0 & \cdots & \pi & \cdots & 2\pi & \cdots \end{array} \] すなわち \[ \left|2\varphi-\varphi_1\right|<\pi,\ \ \ 従って\ \ \ \left|\varphi-\frac{\varphi_1}{2}\right|<\frac{\pi}{2} \] $\varphi_1,\varphi_2$の関係も全く同様だから \[ \left|\varphi_1-\frac{\varphi_2}{2}\right|<\frac{\pi}{2},\ \ \ 従って\ \ \ \left|\frac{\varphi_1}{2}-\frac{\varphi_2}{2^2}\right|<\frac{\pi}{4} \] 次第にこのようにして一般に \[ \left|\frac{\varphi_{n-1}}{2^{n-1}}-\frac{\varphi_n}{2^n}\right|<\frac{\pi}{2^n} \] を得ます。これによって \[ \lim_{n\rightarrow\infty}\frac{\varphi_n}{2^n}=\varPhi \] の極限値の存在を知ることができます。そこで(6)において$n\rightarrow\infty$とすると次の結果を得ます。 \[ \int_0^\varphi\frac{d\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}=\frac{a}{M}\varPhi \] $\varPhi$を算出するには別に便法はないが、(1)によって逐次に$\varphi_1,\varphi_2,\cdots$を計算すると$k_n'$がまっすぐ$1$に近づくので$\displaystyle\frac{\varphi_n}{2^n}$は意外に早く一定の値(すなわち$\varPhi$)に近づきます。 特に$\displaystyle\varphi=\frac{\pi}{2}$のときは \[ \varphi_1=\pi,\ \ \ \varphi_2=2\pi,\ \cdots,\ \ \ \varphi_n=2^{n-1}\pi,\ \cdots, \] 従って \[ \varPhi=\frac{\pi}{2} \] ゆえに \[ K=\int_0^1\frac{dx}{\sqrt{\left(1-x^2\right)\left(1-k^2x^2\right)}}=\int_0^\frac{\pi}{2}\frac{d\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}=\frac{a}{M}\frac{\pi}{2} \] 同様にして$K'$も計算されます。 例えば$\displaystyle k=\frac{24}{25}$のとき$K$を計算してみましょう。この場合には$\displaystyle k'=\frac{7}{25}$だから、 \[ a=25,\ \ \ b=7 \] とおけば、 \[ \begin{array}{ccc} a_1=16.00000 & \hspace{2cm} & b_1=13.22876 \\ a_2=14.61438 & \hspace{2cm} & b_2=14.54854 \\ a_3=14.58146 & \hspace{2cm} & b_3=14.58142 \\ a_4=14.58144 & \hspace{2cm} & b_4=14.58144 \end{array} \] よって$M=14.58144$として \[ K=\frac{a}{M}\frac{\pi}{2}=2.69314 \] となります。

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