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【共形場理論】第20講 共形Ward 恒等式とトレースアノマリー

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共形Ward 恒等式とトレースアノマリー

場の量子論では連続的な対称性に由来する相関関数の間の関係であるとして、Ward 恒等式を導入した。ここでは、共形対称性におけるWard 恒等式を考えてみよう。このためには、以下のように、考えている場の量子論を、エネルギ・運動量テンソルの演算子挿入のための源泉である古典的で非伝搬の湾曲した空間背景に結合することが適切である。

\begin{equation}
\Braket{T_{\mu\nu}(x)}=-\dfrac{2}{\sqrt{g}}\dfrac{\delta W}{\delta g^{\mu\nu}(x)}\tag{121}
\end{equation}

但し、ここではEuclid 符号の場合を考えている。ここで、$W$は連結Green 関数の母関数である。場の量子論の知見から、(121)は$T_{\mu\nu}$が複合演算子であることを保証している。共形不変な理論において、以下の式が成り立つと期待出来る。

\begin{equation}
0=\delta_\sigma W=\int d^dx\dfrac{\delta W}{\delta g^{\mu\nu}}\delta_\sigma g^{\mu\nu}=-\int d^dx\sqrt{g}\sigma(x)\Braket{{T^\mu}_\mu}\tag{122}
\end{equation}

これより、以下の式が成り立つことが分かる。

\begin{equation}
\Braket{{T^\mu}_\mu}=0\tag{123}
\end{equation}

この方程式の理解には注意が必要を要する。${T^\mu}_\mu$の真空期待値が消えているのであって、${T^\mu}_\mu$そのものが消えるわけではない。量子化における正則化とくりこみの必要性は、古典レベルで存在していた対称性を破る生成汎関数の寄与につながる可能性がある。これらはWard 恒等式の付加的な寄与につながる。これは特に共形対称性で起こり、曲率を含むエネルギー・運動量テンソルのトレースへの重要な寄与につながる。エネルギー・運動量テンソルはスケール次元$d$を有するので、$d$次元の共形アノマリーは$d$次元のスカラーである。

$2$次元の場合を考えることから始めよう。ここで、共形アノマリーは$2$次元のRicci スカラー$R$を用いて

\begin{equation}
\Braket{{T^\mu}_\mu(x)}=\dfrac{c}{24\pi}R\tag{124}
\end{equation}

となる。$c$は中心電荷であり、Virasoro 代数(72)にも現れている。ここで、

\begin{equation}
\int d^2x\sqrt{g}R=2\pi\chi\tag{125}
\end{equation}

が成り立つので、共形アノマリー(124)はトポロジカル密度である。但し、$\chi$はEuler 数である。

素朴には、曲率がないような平坦な空間において、アノマリー(124)はなくなる。しかし、アノマリーは平坦な空間においても影響を与える。これは計量に関して(124)の両辺を2回変えると明らかになる。次に(124)はエネルギー・運動量テンソルの$2$点関数に重要な影響を与える。$g^{\sigma\rho}(y)$に関する変化(124)は

\begin{equation}
\Braket{{T^\mu}_\mu(x)T_{\sigma\rho}(y)}=-\dfrac{c}{12\pi}(\partial_\sigma\partial_\rho-\delta_{\sigma\rho}\partial^2)\delta g^{\sigma\rho}\tag{126}
\end{equation}

を生じる。Ward 恒等式を利用して、以下のように計算する。
\begin{array}
0=&\Braket{\dfrac{\delta S}{\delta g^{\sigma\rho}(y)}{T^\mu}_\mu(x)}+\Braket{\delta_{g^{\sigma\rho}}{T^\mu}_\mu(x)\delta^{(2)}(x-y)}\nonumber\\
=&\Braket{T_{\sigma\rho}(y){T^\mu}_\mu(x)}+\Braket{\delta_{g^{\sigma\rho}}{T^\mu}_\mu(x)}\delta^{(2)}(x-y)
\end{array}
よって、
\[
\Braket{{T^\mu}_\mu(x)T_{\sigma\rho}(y)}=-\dfrac{c}{12\pi}(\partial_\sigma\partial_\rho-\delta_{\sigma\rho}\partial^2)\delta^{(2)}(x-y)
\]
を得る。今、Euclid 化しているから$i$がつかないことに注意。但し、平坦な空間の周りでの展開

\begin{equation}
R\sim-(\partial_\sigma\partial_\rho-\delta_{\sigma\rho}\partial^2)\delta g^{\sigma\rho}\tag{127}
\end{equation}

を用いた。平らな空間での共形場理論において、(126)も固定されているということに着目することは重要である。

(96)または(98)で与えられた$2$次元の複素座標系におけるエネルギー・運動量テンソルの$2$点関数がWard 恒等式(126)を満たすということが直ちに示せる。これは次のように行う。$2$次元において、エネルギー・運動量テンソルの$2$点関数(96)の一般的な表式は次のように書ける。

\begin{equation}
\Braket{T{\mu\nu}(x)T_{\sigma\rho}(y)}=-\dfrac{c}{48\pi^2}S^x_{\mu\nu}S^y_{\sigma\rho}\ln{((x-y)^2\mu^2)} 、 S_{\mu\nu}=\partial_\mu\partial_\nu-\delta_{\mu\nu}\partial^2\tag{128}
\end{equation}

複素座標系$T(z)=-2\pi T_{zz}(x)$を用いると、(128)から始めて、複素座標系の標準的な結果(98)に辿り着くことが出来る。更に、(128)の$4$つの微分のうち$2$つの微分を注意深く取ることで、(128)はWard 恒等式(126)を満たすことも示せる。注意として、表式$1/x^2$は$2$次元における分布としては特異である。実際、一般の次元において以下の式を得る。

\begin{equation}
\dfrac{1}{x^{2\lambda}}\sim\dfrac{1}{d+2n-2\lambda}\dfrac{1}{2^{2n}n!}\dfrac{2\pi^{d/2}}{\Gamma(d/2+n)}(\partial^2)^n\delta{(d)}(x)\tag{129}
\end{equation}

これより、$2$次元においては以下のようになる。

\begin{equation}
\dfrac{1}{2}{S_\mu}^\mu\ln{(x^2\mu^2)}=\dfrac{1}{2}(-\partial^2)\ln{(x^2\mu^2)}=-\dfrac{1}{2}\partial^\mu\dfrac{2x_\mu}{x^2}=2\pi\delta^{(2)}(x)\tag{130}
\end{equation}

第$2$の微分を取ると、分母の極と分子の$d-2$が相殺して、計算結果は有限の値となる。$2$点関数において、以下の結果を得る。

\begin{equation}
\Braket{{T^\mu}_\mu(x)T_{\sigma\rho}(y)}=-\dfrac{c}{12}S_{\sigma\rho}\delta^{(2)}(x-y)\tag{131}
\end{equation}

これはWard 恒等式(126)と一致している。

問題

上で述べた概略に従って計算を行い、(96)または(98)で与えられた$2$次元の複素座標系におけるエネルギー・運動量テンソルの$2$点関数がWard 恒等式(126)を満たすということを示せ。

曲率を用いて奇数次元のスカラーを構成することが出来るから、奇数次元においては共形アノマリーは現れない。$4$次元において、共形アノマリーは以下の形を取る。

\begin{equation}
\Braket{{T^\mu}_\mu}=\dfrac{c}{16\pi^2}C^{\mu\nu\sigma\rho}C_{\mu\nu\sigma\rho}-\dfrac{a}{16\pi^2}E\tag{132}
\end{equation}

ここで$C_{\mu\nu\sigma\rho}$はWeyl テンソルであり、一般次元$d$における表式は(81)に与えてある。Weyl テンソルは以下のような添字の対称性がある。

\begin{equation}
C_{\mu\nu\sigma\rho}=C_{[\mu\nu][\sigma\rho]} 、 C_{\mu[\rho\sigma\nu]}=0 、 C_{\mu\sigma\rho\mu}=0\tag{133}
\end{equation}

Weyl テンソルが$d\leq3$においてなくなることは注目に値する。(132)の第2項は、$4$次元において以下の式で与えられるような、Euler のトポロジカル密度$E$を含んでいる。

\begin{equation}
E=\dfrac{1}{4}\varepsilon_{\alpha\beta\gamma\delta}R^{\alpha\beta\mu\nu}R^{\gamma\delta\sigma\rho}=R^{\mu\nu\sigma\rho}R_{\mu\nu\sigma\rho}-4R^{\mu\nu}R_{\mu\nu}+R^2\tag{134}
\end{equation}

Euler のトポロジカル密度は以下の式を満たす。

\begin{equation}
\int d^4x\sqrt{g}E=4\pi\chi\tag{135}
\end{equation}

但し、$\chi$はEuler 数であり、$\varepsilon_{\alpha\beta\gamma\delta}$は$4$次元における完全反対称テンソルである。$E$はトポロジカル密度なので、このアノマリーの寄与は$2$次元におけるトポロジカル密度であるRicci スカラーと平行になる。Weyl テンソルの$2$乗を含む項はWeyl テンソルがなくなる$d\leq3$において消える。$4$次元において、共形アノマリーはエネルギー・運動量テンソルの$2$点関数や$3$点関数に関連したアノマリー項を生じる。(132)の計量を$2$回変えることで以下の式を得る。

\begin{align}
&\Braket{{T_\mu}^\mu(x)T_{\sigma\rho}(y)T_{\alpha\beta}(z)}\nonumber\\
=&2\Bigl(\delta^4(x-y)+\delta^4(x-z)\Bigr)\Braket{T_{\sigma\rho}(y)T_{\alpha\beta}(z)}\nonumber\\
&-32c\mathcal{E}^C_{\sigma\epsilon\eta\rho,\alpha\gamma\delta\beta}\partial^\varepsilon\partial^\eta\delta^4(x-y)\partial^\gamma\partial^\delta\delta^4(x-z)\nonumber\\
&+4a\biggl(\varepsilon_{\sigma\alpha\varepsilon\kappa}\varepsilon_{\rho\beta\eta\lambda}\partial^\kappa\partial^\lambda\Bigl(\partial^\varepsilon\delta^4(x-y)\partial^\eta\delta^4(x-z)\Bigr)+\sigma\leftrightarrow\eta\biggr)\tag{136}
\end{align}

但し、$\mathcal{E}^C$はWeyl テンソル(132)と同じ添字対称性を持ったテンソルの射影である。この射影は積$\delta_{\alpha\mu}\delta_{\beta\nu}\delta_{\gamma\sigma}\delta_{\varepsilon\rho}$の適切な置換と適切な縮約を取ることで構成されている。

$4$次元において、共形アノマリーは平坦な空間上に存在する$3$点関数を含むWard 恒等式へ追加の寄与をもたらす。エネルギー・運動量テンソルの$3$点関数における$3$つの独立係数と共形アノマリーのパラメーター$a$、$c$との間には線型関係がある。エネルギー・運動量テンソルの$3$点関数の第$3$の独立形式はアノマリーフリーである。更に、アノマリー係数$c$はエネルギー・運動量テンソルの$2$点関数の係数に比例するが、$a$は$2$点関数に関係しない可能性がある。この特徴は、アノマリーに寄与するトポロジカル密度の係数が$2$点関数の係数に比例する$2$次元の場合とは非常に異なった結果である。

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